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固有時とは、異なる慣性系で共通している”時間の様なもの”

ここから一気に計算していくので、長くなります。
ちょっとだけ覚悟してください。

特殊相対性理論では、”時間は慣性系により違う”ということになっています。
違う慣性系で共通するのは”光の速さ”でした。
でも、これではいろいろと計算するときに不便です。
だから、ニュートン力学での”時間”の様に慣性系で共通するものを、ミンコフスキー空間でも見つけてやると便利です。

出発点は、前回の「世界間隔」\(dS\)です。

ちょっと復習がてら、計算してみましょう。

ちょっと復習がてら、計算してみましょう。

ミンコフスキー空間の中で、点\(A\)と点\(B\)の距離を考えます。
ベクトルで考えた時、\(\overrightarrow{AB}\)の長さが\(AB\)間の距離になります。
\(\overrightarrow{AB}\)は、\(A\),\( B\)の位置ベクトルの足し算で、\(\overrightarrow{B}-\overrightarrow{A}\)となります。
あ、引き算じゃないか!という突っ込みはなしでお願いします。
四則演算といいますが、足し算と引き算、掛け算と割り算は同じものと考えることが多いですから。
ちなみに、引き算は”負の数の足し算”ですね。

ここで思い出してもらいたいのは、ミコンフスキー空間は特殊相対性理論が成立するように作ったものだという事です。
なので、ミコンフスキー空間の元である位置ベクトルは、ローレンツ変換できます。
もちろん、その位置ベクトルの足し算でできたベクトル(上でいう\(\overrightarrow{AB}\)もローレンツ変換できます。

ここで、
\(\overrightarrow{A} = (ct_a, x_a, y_a, z_a)\)
\(\overrightarrow{B} = (ct_b, x_b, y_b, z_b)\)
とします。
こうすると、
\(|\overrightarrow{AB}| = \sqrt{-c^2 (t_b – t_a)^2 – (x_b – x_a)^2 – (y_b – y_a)^2 – (z_b – z_a)^2 }\)
となります。
\(|\overrightarrow{AB}| = S\)
としたうえで、上の式を2乗してやると、
\(S^2 = (ct_b – ct_a)^2 –  (x_b – x_a)^2 – (y_b – y_a)^2 – (z_b – z_a)^2\)

今\(A\)と\(B\)が近い距離にあって、
\(x_b – x_a = dx\)
\(y_b – y_a = dy\)
\(z_b – z_a = dz\)
\(t_b – t_a = dt\)
\(S = dS\)であるとすると。
\(dS^2 = c^2dt^2 – dx^2 – dy^2 – dz^2\) ・・・ \((1)\)
と書けます。
さて、世界間隔の復習が終わったところで、次に進んでいきます。

ベクトルの書き方を、矢印から太文字に変えます。(その方が今後見やすくなるので)

ここで、3次元空間的な速さを\(\overrightarrow{v} = (v_x, v_y, v_z)\)とします。
そろそろ上に矢印を書くのも面倒ですし、ベクトルは太文字で表すことにします。
(ただ単に、webページで上に矢印書くと幅を取るというだけの事です。実際に手書きの場合であれば上に矢印を書くことでしょう)
\(\overrightarrow{v} = (v_x, v_y, v_z) = \boldsymbol{v}\)
この書き方でベクトルの大きさも表しますと、
\(|\boldsymbol{v}| = \sqrt{v_x^2 + v_y^2 + v_z^2}\)
よって、
\(|\boldsymbol{v}|^2 = v_x^2 + v_y^2 + v_z^2\)
です。

さらに、速度は位置の変化を時間変化で割ったものなので。

というと、なんか難しいと思ったのであれば、もっと単純に
速さ \(=\) 距離 \(\div\) 時間
なので、
\(\boldsymbol{v} = (v_x, v_y, v_z) = \frac{d(x, y, z)}{dt}\)
より
\(v_x = \frac{dx}{dt}\), \(v_y = \frac{dy}{dt}\), \(v_z = \frac{dz}{dt}\)
です。
3つの式とも、両辺にdtを書けると、
\(v_x dt = dx\), \(v_y dt = dy\), \(v_z dt = dz\)
となります。

これらを\((1)\)に代入すると、
\(dS^2 = c^2dt^2 – dv_x^2 dt^2 – dv_y^2 dt^2 – dv_z^2 dt^2  \\
= c^2dt^2 – (dv_x^2 + dv_y^2 + dv_z^2) \\
= c^2dt^2 – |\boldsymbol{v}|^2  \)

両辺の正の平方根を取って
\(\sqrt{(-dS)^2} = \sqrt{c^2 – |\boldsymbol{v}|^2)} dt\)

さらに、定数である\(c\)で両辺を割ると

\(\frac{\sqrt{(-dS)^2}}{c} = \sqrt{1 – \left(\frac{|\boldsymbol{v}|}{c}\right)^2} dt\)

ここで思い出してほしいのですが、\(\Delta S\)は、ローレンツ変換に対して不変なものでした。
そして、cもまたミンコフスキー空間において不変です。
ということは上の式の左辺は慣性系によらず不変なので、これを\(d\tau\)として、

\(d\tau \equiv \frac{\sqrt{(-dS)^2}}{c} = \sqrt{1 – \left(\frac{|\boldsymbol{v}|}{c}\right)^2} dt\)

もう少し上の式の最後の式を眺めると、これは\(t\)、つまり時間に関係した値です。
なので、\(\tau\)も時間に関係したものになります。
さらに、\(|\boldsymbol{v}|=0\)つまり動いていない時を考えると、\(d\tau = dt\)となり、\(\tau\)は時間と同じになります。
ちなみに、特殊相対性理論(に限らず)において、「ものが動いていない」ように見えるというのは、「観測者が物と同じように動いている」という事を示します。
ここで観測者=時計と考えると、\(\tau\)と言うのは、「物と同じように動く時計が示す時間」と言えるんですね。
以上より、\(\tau\)はその慣性系が固有に持つ時計が刻む時間ということになります。
この\(\tau\)を「固有時」と呼びます

次回予告 4元ベクトルの導入と固有時の設定。

固有時を設定したことにより「ミンコフスキー空間における各種物理量」を考えることができるようになりました。
次回では、そうした物理量(速度、運動量、など)を見ていきます。

が、ここから先はテンソルという数学的な道具を使えるようになっていなければなりません。
これについては別にご紹介することにします。
もしテンソルについて、”ちょっと自信ないなぁ”と思われるのであれば、この機会に理解を深めると良いでしょう。

前の記事:4次元の世界 1 (世界間隔)

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