前回の予告で「ベクトルの、ベクトルによる、ベクトルのための微分」といいましたが、なぜこんなものが必要なのか?

なんか、思いついてしまったもので連発していますが、「ベクトルの、ベクトルによる、ベクトルのための微分」ですが。
表題の通り「ベクトル量の位置ベクトルによる微分」という意味です。
なぜこんなものが必要かといいますと。

世の中、いろいろな物理量であふれています。
物理量と言うのは、簡単に言うと「物や場所の状態や性質を表す情報の中で、物理的なもの」です。
物理的なパラメータといってもいいかもしれませんね。

例えば私の場合、国籍・性別・氏名などといった物理的でない情報から、質量・体積・表面積といった物理的な情報まで、いろいろなパラメータを持っています。
この中で物理的な議論をするために必要な物理的パラメータを物理量と言っています。

で、上に上げた質量・体積・表面積というものは、「1つの数値」です。
しかし、速度はどうでしょう?
一応3次元空間で考えると、速度は「速さ」と「向き」を持っています。
なので、ベクトルで表せますね。
つまり、速度はベクトルで表せる量=ベクトル量 なわけです。

ベクトル量はレアなものかというと、そうでもなくて。身近な例で言うと風向・風速もベクトル量です。位置とベクトル量を同時に考えるときに使うのが、「ベクトル場」です。

表題の例の様に、風向・風速を矢印で表して、地図上に書いているのを天気予報の時(サイト)で見ると思います。
つまり、風向・風速という情報はベクトル量なんです。
そして、それを地図上で表した状態、これを「ベクトル場」といいます。

ところで、〇〇場というのはよく耳にしませんか?
電場・磁場・重力場。
英語でフィールドといいますが、こういうのも含めるともっとありますよね。
ゲームやSFの世界などでは、架空の〇〇場とか△△フィールドとか出てきますよね。
話がそれましたが、現実・非現実問わず、〇〇場というのは結構一般的です。

自然科学では、物理量の「変化」を見ます。変化を見る=微分を考える という事でした。

私のサイトの数学の項に「微分について」をまとめたものがありますが。
そこで言っている通り、微分と言うのは「変化の仕方」を考えるものでした。
なので、ベクトル量の変化を見るためには、どうしてもベクトルの微分が必要だったのです。

さらに、変化の仕方を見るときには、「何に対しての変化か」も必要です。
例えば、速さは(移動)距離の時間に対する変化です。
分かりやすくするために、変化する量と変化させる量を考えます。
速さにおいては、変化する量は距離、変化させる量が時間です。

ベクトル場においては、「ベクトル量の、ベクトル場内の位置変化に対する変化」を見ることになります。
つまり、変化する量がベクトル量(物理量)で、変化させる量は位置ベクトルになります。
よって、ベクトルによる微分が必要だったんですね。
そうそう、この辺から、「ベクトル量の物理量」を、「物理ベクトル量」と呼ぶことにします。
ちなみに、この呼び方は私が勝手に決めたもので、ここでしか通用しませんので、ご注意ください。

これを合わせれば、
「ベクトル場におけるベクトル量の位置ベクトルによる変化を見るために、ベクトルのベクトルによる微分が必要だった」
というのがわかってもらえると思います。
(なんだか、早口言葉の様ですが)

ということで、まず数値のベクトルによる微分の書き方を決めます!

え!?勝手に決めていいの?と思うかもしれませんが。
いいんです。
その後の計算とかでつじつまが合えば。

よく考えてみれば、四則演算の記号や式の表し方など、最初は誰かが決めたものを使っていっていたものが、つじつまが合うからみんな使うというだけですね。
分数にしろ小数(点)にしろ、もっと言えば10進法だって、誰かの決めた決まりがうまくいっているから使っているというものです。

話が脱線してしまいましたが、数値のベクトルによる微分は次のように書くことに決まっています。
\(\frac{dA}{dx^{\mu}} = A_{, \mu}\)

ここから”ベクトルの”ベクトルによる微分に話を発展させましょう。

これを踏まえて、物理ベクトル量の位置ベクトルによる微分の書き方を決めます!!

ここで本来なら、ある座標系の\(x^{\mu}\)を変換して新しい座標系にすると\(x^{\mu ‘}\)なって、ホニャホニャ・・・となるのですが。
とりあえず、次の事だけ頭に入れておきましょう。
「ベクトル量は、位置によってきまってますよ」
ただこれだけです。

もちろん、この簡単な言い方は多分に間違いを含んでいます。
嘘といってもいいですが、私は「方便」だと思っています。
とにかく次に進むことに重点を置いて、正確さを犠牲にすることにしています。

さて、ベクトル量\(A\)の要素\(^{\nu}\)を別のベクトル\(x^{\mu ‘}\)で微分したものを次のように表すことにします。
\(\frac{dx^{\mu}}{dx^{\mu ‘}} = x^{\mu} _{, \mu ‘}\)
両辺に\(dx^{\mu ‘}\)掛けまして、
\(dx^{\mu} =x^{\mu} _{, \mu ‘}dx^{\mu ‘}\)
になります。

ここでちょっと魔法を使ってみます。
(魔法使うと表現したのは、やっていることの詳細を隠した状態で形を変えるためです。)
\(dx^{\mu}\)を要素に持つベクトルを\(A^{\mu}\)、\(dx^{\mu ‘}\)を要素に持つベクトルを\(A^{\mu ‘}\)としてやります。
すると、式が
\(A^{\mu} = x^{\mu} _{, \mu ‘} A^{\mu ‘}\)・・・①
となります。

式の中の添え字をすべて入れ替えたり(\(\mu\)と\(\mu ‘\)を入れ替えたり)、変えたり(\(\mu\)を\(\lambda\)に変えたり)してもいいことは今までにやってきました。
そこで①に対して\(\mu\)と\(\mu ‘\)を入れ替えて、\(\mu\)を\(\lambda\)に変えてやると
\(A^{\mu ‘} = x^{\mu ‘} _{, \lambda} A^{\lambda}\)・・・②
になります。

①の右辺に\(A^{\mu ‘}\)がありますので、そこに②を代入すると、
\(A^{\mu} = x^{\mu} _{, \mu ‘} x^{\mu ‘} _{, \lambda} A^{\lambda}\)
となります。
この式をよく見てみましょう。
するとあることに気づくでしょう。
「この式では、\(A\)の添え字について、位置を変えずに(上付きのままで)\(\mu\)を\(\lambda\)に変えている」
そして、この文章、最近見たことに気付いたでしょうか。
\(g^{\lambda} _{\mu}\)がその働きをしていましたね。
という事は
\(x^{\mu} _{, \mu ‘} x^{\mu ‘} _{, \lambda} = g_{\lambda} ^{\mu}\)・・・⑦
という事になりました。

反変ベクトルに関することを見てきましたが、共変ベクトルではどうかを考えます。

次に共変ベクトルがどうなっていくかを考えます。
使うのは
「共変ベクトルと反変ベクトルの内積が不変」
という、いつものあれです。

まず単純に式で表すと、
不変 \(= A_{\mu} A^{\mu}\)・・・③
です。
\(\mu\)を\(\lambda\)に変えてもいいので、
不変 \(= A_{\mu} A^{\mu} = A_{\lambda} A^{\lambda}\)
②式で、\(\lambda\)と\(\mu ‘\)を入れ替えて、\(\mu ‘\)を\(\mu\)に変えると
\(A^{\lambda} = x^{\lambda} _{, \mu} A^{\mu}\) ・・・④
になるので、これを③に代入して
不変 \(= A_{\mu} A^{\mu} = A_{\lambda} A^{\lambda} = x^{\lambda} _{, \mu} A_{\lambda} A^{\mu} \)・・・⑤

⑤の2項目と4項目で\(A^{\mu}\)が出てきます。
という事は、その係数部分が等しいと言えるので、
\(A_{\mu} = x^{\lambda} _{, \mu} A_{\lambda}\)・・・⑥
となります。

実はディラックさんの本では、
不変 \(= A_{\mu} B^{\mu}\)を使っています。
この式はスカラー積で不変です。
なので、話の展開は全く同じです。
より一般的にしたのかもしれませんが。

これで、反変ベクトルや共変ベクトルに「ベクトルのベクトルによる微分」をかけて、添え字の変わった反変ベクトルや共変ベクトルになるという式が出ました。

\(A^{\mu} = x^{\mu} _{, \mu ‘} A^{\mu ‘}\)・・・①

\(A_{\mu} = x^{\lambda} _{, \mu} A_{\lambda}\)・・・⑥
ですね。
これを使うことで、任意のテンソルの上付き・下付き添え字を変えることができるようになります。
たとえば、
\(T^{\alpha \beta}_{\gamma} = x^{\lambda} _{, \alpha} x^{\mu} _{, \beta} x^{\gamma} _{, \nu} T^{\lambda \mu} _{\nu}\)
のようにですね。

さて次は、これらを使ってテンソルである条件を見ていきます。
任意のテンソル(?)の上付き・下付き変更ができる = やっぱりそれはテンソルだった!
という風に持っていくんですね。

今までさんざん見てきた\(g_{\mu \nu}\)、\(g^{\mu \nu}\)、\(g^{\mu} _{\nu}\)を改めて検証です。(ちなみにこれらを「標準テンソル」と呼びます)まず、\(g^{\mu} _{\nu}\)から。

まず⑦の式から
\(x^{\mu} _{, \mu ‘} x^{\mu ‘} _{, \lambda} = g_{\lambda} ^{\mu}\)・・・⑦
左側の項は
\(x^{\mu} _{, \mu ‘} x^{\mu ‘} _{, \lambda} = \frac{\partial x^{\mu}}{\partial x^{\mu ‘}} \frac{\partial x^{\mu ‘}}{\partial x^{\lambda}} \\
= \frac{\partial x^{\mu}}{\partial x^{\mu ‘}} \frac{\partial x^{\mu ‘}}{\partial x^{\beta}} \frac{\partial x^{\alpha}}{\partial x^{\mu ‘}} \frac{\partial x^{\mu ‘}}{\partial x^{\lambda}} \)
となります。
⑦より
\(\frac{\partial x^{\mu ‘}}{\partial x^{\beta}} \frac{\partial x^{\alpha}}{\partial x^{\mu ‘}} = g^{\alpha} _{\beta}\)
となります。
よって
\(\frac{\partial x^{\mu}}{\partial x^{\mu ‘}} \frac{\partial x^{\mu ‘}}{\partial x^{\lambda}} g^{\alpha} _{\beta} = g_{\lambda} ^{\mu}\)
となり、①や⑥が当てはまります。

次に\(g_{\mu \nu}\)について。

勝手なテンソルに対して、次の式が必ず成り立ちます。
\(g_{\alpha ‘ \beta ‘} A^{\alpha ‘} B^{\beta ‘} = g_{\mu \nu} A^{\mu} B^{\nu} ( = g_{\mu \nu} x^{\mu} _{, \alpha ‘} A^{\alpha ‘} x^{\nu} _{, \beta ‘} B^{\beta ‘} ) = g_{\mu \nu} x^{\mu} _{, \alpha ‘} x^{\nu} _{, \beta ‘} A^{\alpha ‘} B^{\beta ‘} \)

これが常に成り立つということは、\( A^{\alpha ‘} B^{\beta ‘} \)の係数に着目して、
\(g_{\alpha ‘ \beta ‘} = g_{\mu \nu} x^{\mu} _{, \alpha ‘} x^{\nu} _{, \beta ‘}\)
となり、①や⑥が当てはまります。

最後に\(g^{\mu \nu}\)について。

これについては、
\(g^{\alpha ‘ \beta ‘} A_{\alpha ‘} B_{\beta ‘} = g^{\mu \nu} A_{\mu} B_{\nu} = g^{\mu \nu} x_{\mu} ^{, \alpha ‘} x_{\nu} ^{, \beta ‘} A_{\alpha ‘} B_{\beta ‘} \)
となるので、\(A_{\alpha ‘} B_{\beta ‘} \)の係数に着目して、
\(g^{\alpha ‘ \beta ‘} = g^{\mu \nu} x_{\mu} ^{, \alpha ‘} x_{\nu} ^{, \beta ‘}
となり、①や⑥が当てはまります。

なぜこんなにテンソルであることにこだわるかというと、似非テンソルというものがあるから。

似非テンソル、英語ではノンテンソル。
つまり、テンソルに見えてテンソルでないもの。

どうテンソルに見えるかというと、「添え字の上げ下げがテンソルと同じようにできる」所。
テンソルと違うのは、①や⑥が当てはまらないところ。

まあ、その辺とテンソルにある操作をしてもテンソル、というところを次回に詰めましょう。
その後、ちょっとしたこれまでの総括と、今後の動きをお話しいたします。