そうそう、このあたりから、既出の物理量についてはある程度単位を省略することにします。

既出の物理量としては、
距離:\(m\)、質量:\(kg\)、力:\(N\)、時間:\(s\)
あたりと、その複合的な物理量
速度:\(m/s\)、加速度:\(m/s^2\)
になります。
書くこともありますが、省略しても慌てないようにしてください。

あと、一度出たものはどんどん省略していくと思います。
(この項で言うと、仕事:\(J\)、エネルギー:\(J\)あたりになります。)

実を言うと、仕事と言うのは、恐ろしいことに中学校でも習っていました。かなり完璧に。

「いよいよ仕事とかエネルギーかぁ~。結構めんどうなんだよなぁぁ」って思ってたんですけどね。
実はこのあたり中学校でも習ってたんです。

どんな内容だったかと言うと、
・仕事とは、物体の力を加えて物体を動かし、物体の持つエネルギーを変化させるものです。
と習ったはずなんです。
ほんとにこれ、中学校で習ったんですかね?
そもそもエネルギーについてまだ何も言ってませんが、何か?
という感じですが。

それどころか
・仕事は <掛けた力> x <距離> でしかもかけた力の単位は\(N\) :ニュートンで、距離は\(m\):メートルで、仕事の単位は\(J\):ジュール
という事まで習っています。

ついでに言うと仕事率と言う物があって、<仕事> / <仕事をした時間> = \(J\) / \(s\) = \(W\):ワット という事まで習ったようです。

う~ん、仕事についてはも、もはやないような気がしますが・・・。
いや、ありました、高校でやらなきゃいけないことが。

高校でやることは、仕事(やエネルギー)を、式とその計算で追いかけること。

そうなんです、中学校理科の段階では、言葉だけで式や計算があまりなかったんです。
もともと自然科学が世の中の仕組みを追求するために行ったのは、「言葉からの脱却」でした。
代わりに使用したのが「数学」という新たな手法でした。
つまり、言葉が主に使われていた中学校理科は、自然科学を始めるスタートラインの様なものだったのかもしれません。

とはいえ、仕事は<力(\(N\))> \(\times\) <距離(\(m\))>\(= F \times L\)で表され、その単位は\(J\):ジュールというところまでは勉強していたんですね。
これも式で仕事を考える事には違いがないのですが。
高校ではもう一つあるものを足して、さらに計算で考えるようにします。
何を足すかと言うと、「負の仕事」です。

負の仕事と言うのが何かと言うと、加える力の向きと物体の移動方向が反対の時の仕事です。
中学校理科では、力を加えた方向に物体が動いていました。
この時、物体は加速したり持ち上げられたりしていました。
負の仕事ではどうなるかと言うと、物体が減速します。(持ち上げるの反対は落下ですが、これは何もしなくても起こるので省きました)

さて、負の仕事を考えると何がうれしいかと言うと、エネルギーとの関係がわかりやすくなるんです。

ある速度で動いている物体に、反対向きの力を加えて停止させることを考えると、仕事と(運動)エネルギーの関係が出てきます。

最初に、エネルギーという言葉をどう定義したかですが、
エネルギーとは、その物体が持つ、仕事をする能力
でした。
このこと自体は中学校でも習っていたのですが。
でも、仕事とエネルギーの関係にはそれほど触れていませんでした。
高校ではその関係をしっかり読み解いていきます。

動いている物体はエネルギー、すなわち仕事をする能力を持っているはずです。
なぜなら、動いている物体が止まっている物体を動かす場面はいろいろなところで見られるからです。
(いい例になるかどうかわかりませんが、水車や風車がありますね)
後は、それがどのように表せるかという事。

仕事は<力(\(N\))>\(\times\)<距離(\(m\))>で、物体の移動方向と逆向きに力を掛けながら物体が動いて=減速していって、ついには速度が0になるという状態を考えます。
条件として、初期速度の大きさ:\(v_0 (m/s) \geq 0\)、掛ける力の大きさ:\(F\) \((N)\)、常に力は速度の正反対に掛け続ける、とします。
使う公式は等加速度運動の①、②の式と運動方程式になります。
覚えていますか?覚えていなければこちらのページで復習してください。
\(v = \alpha t + v_0\)・・・①
\(x = \frac{1}{2} \alpha t^2 + v_0 t\)・・・②
\(m \alpha = F\)・・・③
\(t (s)\):時間 \(x (m)\):距離 \(\alpha (m/s^2)\):加速度
(ただし、時間\(t=0\)の時の位置について\(x=0\)とします。)
①より\(v=0\)となるときのtは、
\(0 = \alpha t + v_0 \Leftrightarrow t = -\frac{v_0}{\alpha}\)
※時間\(t\)が負になっているように見えますが、\(\alpha\)必ず負なので、\(t\)は必ず正になります。
これを②に代入すると、
\(x = \frac{1}{2} \alpha (-\frac{v_0}{\alpha})^2 +v_0 (-\frac{v_0}{\alpha})=\frac{1}{2} \frac{v_0^2}{\alpha} – \frac{v_0^2}{\alpha} = -\frac{v_0^2}{\alpha}\)
物体が停止するまでに受ける仕事を\(W\) \((J)\)とする時、
\(W = – F x = m \alpha x = m \alpha \frac{1}{2} \frac{v_0^2}{\alpha } = \frac{1}{2} m v_0^2\)
ここから、速度\(v_0\)で運動する質量\(m\)の物体は、\(W = \frac{1}{2} m v_0^2\)の仕事をする能力がある=エネルギーを持つ と言えます。

運動している物体の持つエネルギーなので、これを「運動エネルギー」と呼びます。
こうして、公式
\(E_{(mv)} = \frac{1}{2} m v^2\)
\(E_{(mv)} (J)\):運動エネルギー が出ました。

次に、物体をそ~っと持ち上げるときのことを考えます。(重力による位置エネルギー)

次に地球上で物体をそ~っと持ち上げるときのことを考えます。
運動エネルギーで、運動している物体を止めるために必要だった仕事がその物体の持つ運動エネルギーでした。
という事は、物体をそ~っと持ち上げるときに物体にする仕事の分、何かのエネルギーが物体にためられると考えていいでしょう。

質量\(m\)の物体を地球上(重力加速度\(g = 9.8\))で地面から\(h\) \(m\)持ち上げるときのことを考えます。
この物体にかかる重力は\(mg\)ですので、これに等しい力(本当はほんの少し大きな力)を掛ければ物体は持ちあがっていきます。
\(h\) \(m\)持ち上げるのですから、距離は当然\(h\)ですね。

この時物体が受ける仕事は
\(W = m \cdot g \cdot h\)になります。
こうして受けた仕事によってためられたエネルギーは、物体の位置(高さ)で決まります。
こういった「位置で決まるエネルギー」をまとめて「位置エネルギー」といいます。
そして、その位置エネルギーのもとになる力をその前にくっつけます。
この場合エネルギーのもとになるのは重力なので、「重力による位置エネルギー」と呼びます。
こうして重力による位置エネルギーの公式
\(E_{(ps)} = m \cdot g \cdot h\)
\(E_{(ps)}\):位置エネルギー
が出ました。

補足ですが、重力に限らず「位置エネルギー」と名前がつくと「基準面」が必要となります。
今回は地面が基準面。
位置0のところを基準面にしたわけですね。
基準面の取り方は任意で、その事象を考えやすいように決めています。
(特に言わずに決定していることや、問題を解く人に任せられていることもありますよ)

ばねにためられるエネルギーもあります。(弾性力による位置エネルギー)

ばねもエネルギーをためられます。
ばねの伸び・縮みに関する公式で、
\(F = k x\)・・・④
\(F\):力 \(x\):伸びまたは縮み \(k\):ばね定数
というものがありました。
ばねは伸び・縮みにより力の大きさが変わるわけです。

とはいえ、④の式は一次関数、つまり直線になりますね。
\(F – x\)平面でその式を見ると、
・原点:\((0, 0)\)を通り、傾きが\(k\)の直線です。

ここで、ばねを\(0\)から\(x’\)まで伸ばしていくことを考えます。
とりあえず距離を連続的に変えるのをいきなり考えるのは難しいので、段階を追って考えます。
最初は\(0\)から\(x’\)までを10等分して考えましょう。
それぞれの点は、\(0, \frac{x’}{10}, \frac{2x’}{10}, \cdots ,\frac{8x’}{10}, \frac{9x’}{10}, x’\)となります。
全部で11点でその感覚は\(\frac{x’}{10}\)です。
全ての点から\(F = k x\)の直線に垂線を上げて交点を出し、\(x’\)から上げた垂線以外の交点から右隣りの垂線に向けて水平線分を引きます。(\(x’\)から上げた垂線には右隣に垂線が存在しないので、この操作はできないのです)
すると、長方形が9個できます。
最初の1個は高さ0の長方形と考えるのなら、合計10個と言えます。
これら10個の長方形の面積は、ぞれぞれ
\(0 \times \frac{x’}{10}, \frac{x’}{10} \times k\frac{x’}{10}, \frac{x’}{10} \times k\frac{2x’}{10}, \cdots ,\frac{x’}{10} \times k\frac{8x’}{10}, \frac{x’}{10} \times k\frac{9x’}{10}\)
となります。
よく見ると、そのすべてが<距離>\(times\)<力>となっていて、仕事の形を取っています。
そして、この10個の長方形の面積を足す(仕事を足していると考えてください)と、\(F = k x\)、\(x\)軸、\(x = x’\)の直線で囲まれた3角形\(A\)の面積よりほんの少し小さくなっています。(ギザギザの分小さくなっていますね。)
最初に10等分したのを20等分しても同じようなことができて、その仕事の合計はより三角形\(A\)の面積に近づくのはわかるでしょうか。
こうして等分する数を無限に大きくする=出来上がる長方形のヨコの長さが無限に小さくなる と仕事の合計が三角形\(A\)の面積と同じとしてよいことになります。
(これが微分・積分の考え方になります)

ところで、三角形\(A\)の面積はどうなるでしょう。
底辺を三角形\(A\)の\(x\)軸、高さを\(x=x’\)と取ったとき(三角形\(A\)は直角三角形ですよ)、その面積は
\(\frac{1}{2} x’ kx’ = \frac{1}{2} k x’^2\)
となります。

このエネルギーはばねが絡むとはいえ位置によって決まるエネルギーです。
なので、「位置エネルギー」の仲間になりますね。
働く力は(ばねの)弾性力なので、これを「弾性力による位置エネルギー」と呼びます。
これについては、名前が長くなるのとか、元々「位置エネルギー」と言うのが「重力による位置エネルギー」だったことが理由と思いますが、略称が付けられています。
それは「弾性エネルギー」というものです。

何はともあれ、この弾性力による位置エネルギー:\(U_{bd}\)は
\(U_{(bd)} = \frac{1}{2} k x^2\)
となります。

次回は力学的エネルギーが保存されるときと保存されない時を考えます。

今考えているのは力学の中のエネルギーだけなので、「力学的エネルギー」と呼んでいます。
これらに加えて、摩擦力、空気抵抗(力)、空気じゃない抵抗力(ねばねばの液体中で物体が受ける抵抗力)なども力学的エネルギーです。

ただ、今回紹介した「運動エネルギー」と広い意味での「位置エネルギー」はちょっと特別な意味を持っています。
それは、運動エネルギーと位置エネルギーはお互いに”行ったり来たりできる”から。
さらに、位置エネルギーについては、特別な性質=「途中の状態は関係なく、最後の位置だけがそのエネルギーに関係する」 をもっているから。

そして、力学的エネルギーが保存される状況とされない状況が出てくるのですが。
そのあたりを次の項でやっていきましょう。

前の記事:力学について 9 ~浮力について~ 

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