物体系の導入。さらにそこで起こる一番簡単な例として、2物体が真正面で衝突する状況を考えます。

物体系というのは、複数の物体をひとくくりで扱うためのまとまりです。
”複数”と言ったときの一番少ない個数は2個ですね。
なので、2物体でできた物体系を考えます。
一番簡単な事件は衝突です。
さらに、その時に一番簡単な状態は、2物体の速度が正反対のもの。
(正反対というのは、お互いの速度のなす角が180°ということです)
そして、衝突後、2つの物体は分離した状態になって、それぞれの速度で運動するのが簡単です。
(融合したりさらに分裂したりするよりは、ですね)

以上より、

  • 物体系は2つの物体でできている。
  • 2つの物体が衝突する。
  • 衝突前の2つの物体の速度は正反対で、それぞれ等速度運動している。
  • 衝突後、2つの物体はそれぞれの速度で分かれて運動する(これも等速度運動になる)。

という状態を考えます。

ちなみに、なぜ2物体が衝突前も衝突後も等速度運動をしていることにするかと言うと、どちらも力を受けていないとしたいから。
というのも、力を受けると力積が発生して、力積が発生するという事は運動量が変化することになるからですね。
とりあえず、衝突前の状態と衝突後の状態は、2物体の運動量が変化しない状態と考えたいので、こうしています。

こう考えると、運動量として何かが起こるとしたら、衝突の瞬間ですね。

衝突前も衝突後も、運動量が変化しない状態を考えているのですから、何か起こるとしたら”衝突の瞬間”しかありません。
話は変わりますが、こういう何か起こる(または起こりそうな)時の出来事を、このシリーズでは「イベント」とか、たまには「事件」という言葉で表す予定です。
衝突の瞬間、2物体は接触しています。
そして、互いに力をもう一方に加えあっている状態です。
さらに、この瞬間においては、2つの物体は静止していると考えられます。

さて、この衝突の瞬間を詳しく見ていきましょう。

まず衝突前の情報です。
物体\(M_1, M_2\)があり、それぞれの質量が\(m_1, m_2\)とします。
衝突前のそれぞれの速さが、\(M_1\)は\(v_1\)で\(M_2\)は\(v_2\)とします。
衝突直前の物体\(M_1, M_2\)の運動量はそれぞれ、\(m_1 \cdot v_1\)と\(m_2 \cdot v_2\)です。

次に衝突の瞬間を見ます。
物体\(M_1\)が物体\(M_2\)に与える力を\(F\)とすると、物体\(M_2\)から物体\(M_1\)にかかる力は\(-F\)になります。
(作用反作用の法則です)
衝突にかかる時間は微小で、\(\Delta t\)だったとします。

次が衝突後の状態です。
衝突後に物体\(M_1\)の速さが\(v’_1\)で物体\(M_2\)の速さが\(v’_2\)になったとします。

衝突前と衝突後について、物体\(M_1\)と物体\(M_2\)の力積を考えます。
力積は運動量の変化量に等しいので、物体\(M_1, M_2\)の衝突前と衝突後の運動量変化を見ます。
また、力積は<力>×<(微小)時間>なので、衝突時のそれぞれの物体が受けた力と\(\Delta t\)を使います。
こうしてそれぞれの物体に関する方程式ができます。
物体\(M_1\)について
<衝突後の運動量> ー <衝突前の運動量> =\(m_1 \cdot v’_1 – m_1 \cdot v_1 = F \Delta t\)・・・①
物体\(M_2\)について
<衝突後の運動量> ー <衝突前の運動量> =\(m_2 \cdot v’_2 – m_2 \cdot v_2 = – F \Delta t\)・・・②
②の両辺にマイナスを掛けて①の\(F \Delta t\)に代入すると
\(m_1 \cdot v’_1 – m_1 \cdot v_1 = m_2 \cdot v_2 – m_2 \cdot v’_2\)・・・③
③について、衝突前に関するものを左辺、衝突後に関するものを右辺にまとめるように変形すると、
\(m_1 \cdot v’_1 – m_1 \cdot v_1 = m_2 \cdot v_2 – m_2 \cdot v’_2 \Leftrightarrow m_1 \cdot v_1 + m_2 \cdot v_2 = m_1 \cdot v’_1 + m_2 \cdot v’_2\)・・・④
となります。
④の式を見ると左辺はこの物体系の衝突前の運動量合計、右辺は衝突後の運動量合計となっています。

以上より、この状況では運動量合計が常に一定=保存されている という事になります。

では、「この状況」てなに?というと、ヒントは2物体が衝突前と衝突後で等速度運動をしているという事。根拠は運動方程式と作用反作用の法測。

「この状況では運動量が保存される」という「この状況」って何かと言うと。
注目している2物体が、衝突前と衝突後に等速度運動しているという事ですね。
等速度運動をする=加速度が0=力がかかっていないか力が釣り合っている となります。
つまり、衝突前・衝突後にこの物体系にかかる力は合計すると0という事です。

衝突の瞬間に2つの物体間で力がかかります。
しかし、この物体同士以外から働く力はない、または釣り合っています。
つまり、衝突の瞬間にこの物体系に働く外力はないかその合計が0という事です。
(外力については、前の項を見直してください)

衝突前・瞬間・後を通じて言えるのは、外力が働いていないかその合計が0という事ですね。
この「外力の合計が0=釣り合っている」と言うのが、運動量保存則が適用できる条件となります。

そして、その時に運動量保存則の根拠となるのは、
・運動方程式(運動の第2法則)・・・力積を考えるときに使用
・作用反作用の法則(運動の第3法則)・・・衝突の瞬間に働く力を考えるときに使用
の2つになります。

ところで、とても有力な武器が手に入った反面、このままでは問題が解けないことにお気づきでしょうか。
そう、イベントの後で、「速さの合計はわかっても、個々の速さがわからない」んですね。
それは、次とその次のパターンを考えることでだんだんわかります。

運動量保存則が活躍する場面 その2 (1物体から)2物体への分裂

今まで2物体が衝突してまた離れていくという場面を詳しく見てきました。
これが「運動量保存則が活躍する場面 その1」です。
でも、ここまででは衝突の後に速さの合計はわかっても個々の速さがわからない。
つぎに考える「その2」が分裂なのですが、ここでそのあたりをはっきりさせます。

ただいきなり複雑な分裂を考えてもしんどいので。
問題を簡単にするために次のような条件を付けます。
・分裂といっても1物体から2物体への分裂とする。
・最初に物体は静止している。(最初に静止していない状況は後で考えます)
・分裂後の2物体の速度は1直線上に乗る=2物体の速度の向きは正反対→これにより、速度ではなく速さで考えることができるようになります。(ただしプラスとマイナスはありです)

この場合、やっぱりイベントは「分裂の瞬間」ですね。
その瞬間には、生まれたばかりの2つの物体は接触していて、受ける力が正反対で大きさが同じで・・・と「その1」でやったように考えてもいいのですが。
我々にはすでに強力な武器があります。
そう、「運動量保存則」ですね。
なので、これを使って見ていきましょう。

イベント前は静止している=速さ0 よって運動量0です。
イベント後に2物体\(M_1, M_2\)に分裂し、それぞれの質量が\(m_1, m_2\)で速さが\(v_1, v’_2\)になるとします。
ただし、速さに関しては、\(v_1\)がプラスで\(v’_2\)がマイナスとします。
(その1でやったように、作用反作用の法則から2つの物体は同じ大きさでかつ向きが正反対の力を受けます。よってそれにより生じる速さも向きが正反対になります)
イベント前後での運動量が等しいとして式を立てると
\(0 = m_1 \cdot v_1 + m_2 \cdot v_2 \\
\Leftrightarrow \frac{m_1}{m_2} = – \frac{v_2}{v_1}\)・・・⑤

ここで状況を確認しておきます。
\(v’_2\)がマイナスなので、その絶対値を\(v_2\)として⑤の等式を書き直せます。
書き直した式は、
\(\frac{m_1}{m_2} = \frac{v_2}{v_1}\)
この式から
\(m_1 : m_2 = v_2 : v_1\)
となります。
こういう形になるのを「逆比になる」といいますので、分裂後の速さは分裂した質量比の逆比になる、という事になります。

さて、ここでその1に戻ってみましょう。

いったん運動量保存則が活躍する場面 その1に戻って。 2物体の衝突で、衝突後のそれぞれの速さは?結論:2物体の質量比の逆比になります。が、まだ絶対数がわからない。

よく考えてみますと、分裂と言うのは衝突の中でイベント以降だけを切り出したものですね。
分裂の時に速さが質量比の逆比になるという事は、衝突でも衝突後の速さが質量比の逆比になるという事です。

ただ、まだ速さの比がわかっただけで、絶対数がわからないんです。
2つの速さの比が1:2とわかっても、それが2と4なのか、5と10なのかがわからない。
これを調べるためには、かなり前にやった「跳ね返り運動」で出てきた反発係数と言うのを使います。

ここで反発係数と言うのを復習しますと、
「物体が何かに衝突して跳ね返るときに、入射時に反発面に垂直な成分の速度\(v_0\)の時に反射時の反発面に垂直な成分の速度は\(-ev_0\)になります。この時\(e\)を反発係数と呼び\(0 \leq e \leq 1\)になります」
式で表すと、反発面に垂直な速度のみを考えるとすると、入射時の速さ:\(v_0\)と反射時の速さの絶対値:\(v_1\)の関係は、
\(-e \cdot v_0 = -v_1 \\
\Leftrightarrow \frac{v_1}{v_0} = e\)・・・⑥
となります。

この\(e\)を使って衝突を考えると、衝突する2つの物体にとって、お互いに相手は「壁」になります。
そして、その壁で反射する時の反発係数は同じになります。
2物体の衝突で考えていたように、物体\(M_1\)の速さが衝突の前後で\(v_1\)から\(v’_1\)に、物体\(M_2\)の速さが\(v_2\)から\(v’_2\)になったとします。

ここでさらにマジックを使います。
相手が「壁」なんですから、「止まってる」と考えるんです。
そんなことができるのか?できます!
相対速度というものをすでに習っているのですから。

以前、速度の足し算・引き算(合成・分解)を習いました。
衝突前に物体\(M_1\)の速さが\(v_1\)、物体\(M_2\)の速さが\(v_2\)とすると、その相対速度は\(v_1 – v_2\)です。
この時、物体\(M_1\)はあたかも静止している物体\(M_2\)に向かって速さ\(v_1 – v_2\)で突っ込んでいくように感じます。
衝突後に物体\(M_1\)の速さが\(v’_1\)、物体\(M_2\)の速さが\(v’_2\)とすると、その相対速度は\(v’_1 – v’_2\)です。
この時、物体\(M_1\)はあたかも静止している物体\(M_2\)から速さ\(v’_1 – v’_2\)で離れていくように感じます。
この時に⑥の式を使うと、
\(-\frac{v’_1 – v’_2}{v_1 – v_2} = e\)・・・⑦
となります。
ここでまた確認ですが、⑦の左辺にマイナスがついている理由です。
これは\(v_1 – v_2\)と\(v’_1 – v’_2\)は符号が逆だからですね。
と言うのも、前者が壁に突っ込む方向で、後者が壁から離れる方向なんですから。
さて、⑦をさらに変形すると次のようになります。
\(v’_1 – v’_2 = -e \cdot (v_1 – v_2)\)・・・⑧

ここにおいて、\(v’_1\)と\(v’_2\)が完全に求まることがわかるでしょうか。
なぜなら、
1. \(v’_1\)と\(v’_2\)は質量の逆比
2. ⑧が成立
1. で比がきまり、⑧で差が決まるのですから。

\(e\)が特殊な状態を見てみますと、
\(e = 1\):入射と反射の速度が大きさ同じで正反対です。これを完全弾性衝突といいます。
実は、これまで「衝突」と言っていたのはこの完全弾性衝突なんです。
\(e = 0\):反射の速度が0です。完全費弾性衝突といいます。実は運動量保存則が活躍する場面 その3の合体が起こるのがこの時です。
ということで、次は合体を考えます。

運動量保存則が活躍する場面 その3 2物体の合体。これは衝突の反発係数が0の時。

衝突における反発係数が0の時と言うのをもう少し詳しく考えてみましょう。
⑧で\(e = 0\)とすると、\(v’_1 – v’_2 = 0\)つまり、衝突後に2つの物体に速さの差がなくなる、という事。
さて、この状態、運動量的には単純なんですよね。

どう単純化と言うと、
A) 物体\(M_1\)と物体\(M_2\)が接触状態を保ちつつ同じ速さで移動する。
B) 物体\(M_1\)と物体\(M_2\)が結合し、新たに質量が合算された物体\(M_3\)としてある速さで移動する。
の2つで、運動量は変わらないんですよ。

変わってくるのは、外力がかかったとき。
つまり、運動量保存則が成立しなくなった瞬間です。
例えば、第3の物体が接触したとか、ぶつかったとか、そういうときですね。
問題を解く時には注意していましょう。

さて、ここまで直線状を運動し、速度が直線に乗るような2物体を考えてきましたが、速度が直線に乗らない、または3つ以上の物体でも同じことが言えます。すべてをベクトルで扱う必要があるだけで。

2物体で速度が直線に乗っている場合のみをこれまで見てきました。
これが、直線に乗らない場合、は平面ベクトルで考える必要が出てきます。
もし3つ以上でどの2つの物体を見ても速度が直線に乗らないのであれば、空間ベクトルで考える必要が出てきます。

難しそうに見えますが、何のことはありません。
平面ベクトルなら、\(x\)座標と\(y\)座標に分けて考えればいいですし。
空間ベクトルなら、\(x\)座標と\(y\)座標と\(z\)座標に分けて考えればいいのです。
分けて考えた一つ一つは、今までのやり方で解けますので。

ここで2つの保存則、運動量保存則と(力学的)エネルギー保存則はどんな関係があるかを考えましょう。結論としては全くの別物ということですが。

(力学的)エネルギー保存則は、運動方程式と仕事から出てきました。
運動量保存則は、運動方程式と作用反作用の法則から出てきました。
両者とも運動方程式から出てきていて、ともに非常に強力な武器だというところは共通しています。
が、両者は全く別物と考えてください。

むしろ2つの保存則で「運動方程式」が元になっているのは、ほぼ唯一の共通点です。
他の点で両者はことごとく違ってきます。

エネルギー・・・仕事つまり距離と関係。保存力であれば外力がかかっても良し(その外力も考慮すれば)。位置エネルギーと運動エネルギーの合計で考える。

運動量・・・力積つまり時間と関係。なんであれ、釣り合っていない外力は不可。反対に釣り合っていれば保存力でなくても可。運動量は運動量でしかない。

パッとあげるとこんな感じです。

別物とはいえ、両方が成立することはあるわけで。その時はそれぞれで式を立てて連立することに。

別物だからこそ、それぞれお互い関係することなく、両方が成立する場合はあります。
・物体系の内部で働くのが保存力のみである。 = 外力が働かず、内力も保存力のみ。
というときですね。
その時は、(力学的)エネルギー保存則と運動量保存則両方で式を立て、それを連立させることになります。

難問と言われるものがこういったパターンを取るらしいですが。
状況さえ正確に把握できれば、かえって簡単になると感じます。
(まだこういう系統の問題を解いていないので、実感はわかないんですが)

次回は、「私が感じた運動量保存則と力学的エネルギー保存則のクエスチョン」をお届けします。

力学的エネルギー保存則は、まあ、すんなり受け入れられたとして。
運動量保存則は何か納得できない感じが昔からしてたんですね。
「力学的エネルギーは保存されないが、運動量は保存される」とか。
実はこれ、とある事柄が原因でした。
それは、
「力学的エネルギーは個々の物体について考え、運動量は物体系としてまとめて考えている。」
ということでした。
この辺を次回詳しくご紹介していきます。

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