速さが変化しないとき、グラフは直線でした。

復習です。
速さが変化しないとき、縦に位置、横に時間を取ったグラフは、直線になりました。
速さは、「位置の変化量」/「時間(の変化量)」で表され、それはグラフの傾きに相当しました。

実は、この場合微分はいらなくなります。
速さが一定=時間で変わらない という事は一回確認すればよいわけですから。

という事は、速さが(時間とともに)変化するときに微分が必要になるのか?というと。
実はその通り、なのです。

速さが一定なんてこと、実際にはないですよね。

速さ一定というのは、現実世界ではあまり考えても仕方ない事ですね。
自動車で移動する場合を考えた時、速さ一定という事は、
・常にフルスロットル。
・信号なんか無視。
という、非常識な状態を考えることになります。
(まあ、フルスロットルである必要はないのですが、アクセルの踏み加減を変化させないという事は、常にいっぱいまで踏み込むのが確実なので)

それでも、運転する人の頑張り(根性?無謀??)で上の2つを満たしたとしても。
・アップダウンが全くない。
という事も必要になりますので。
速さが一定というのは、ほとんど現実味の無い話といってよいでしょう。

話を物理現象に切り替えてみますと。
速さ一定というのは、「物体の動きに変化がない」という事を意味します。
これは、物理法則では次のようになります。

運動の第一法則 慣性の法則
外部から物体に力が働いていないとき、物体の動きに変化がない=静止または等速直線運動をする。

これがどんな状態化といいますと、
「真空中に物体がぽつんと存在する状態」です。
物体が複数存在すれば、そこに必ず「万有引力」が働きます。
(万有引力の正体は「重力」なんですがね)
だから、「真空中」でなければならず(真空以外であれば、必ず気体を構成する”なにか”がありますので)、物体はたった一つ”ぽつんと”存在していないといけません。

確かに、これも一つの物理現象ですが、こういう状態というのは「我々の」世界では、ほぼあり得ません。
地上の物体は普通にしていると、大気中や水中など、”何かの中”にありますし。
宇宙空間に目をやっても、案外そこら中に小惑星やら、隕石の元やら、星やらが存在しているので、”ぽつんと”なんて無理です。
太陽系外まで視野を広げても、太陽系が存在している天の川銀河の中心には、銀河をまとめている強力な重力源があって、天の川銀河内の物はその影響を受けています。

つまり、力が加わっていないという状態を考えるのは、現実的にはナンセンスなわけですね。

※疑似的に、「力が釣り合っている」という状態は考えられますが、これは「速さが変化しているが、その合計がたまたま0である」というように考えるため、変化そのものは考えないといけないわけです。

速さが変化する簡単な例。自由落下を考えます。

自由落下現象。
物理、というか自然科学の歴史上、その節目節目でキーワードとして出てきます。

・ガリレイさんが、物体の重さに関係なく、落ち方は同じであることを発見した。

昔から正しいと言われていたことも、実験で確かめる必要があるってこと。
あと、ここまで考えていたかどうかわかりませんが、
「重い物は強く引っ張られ、軽い物は軽く引っ張られる」
という事でもあります。

・ニュートンさんがリンゴの落下を見て、万有引力を発見した。

本当にリンゴが落ちたのを見たのかどうかわかりませんが、少なくとも「落ちていたもの」と「落ちてこない月」の事を考えて、万有引力を発見したんだろうと予想はできます。

・アインシュタインさんが、屋根から落下した職人の言葉から、等価原理さらには一般相対性理論を発見しました。

職人さんが「屋根から落ちたときにフワッと浮き上がるような(?)感覚があった」という話から、重力による影響は自由落下状態で無視できるんだ、というところから発想を得たと言われています。

それほどまでに身近で自然現象「落下」実は速さの変わる運動です。

実は、と書きましたが、おそらく皆さん実体験でご存じでしょうね。
何かの拍子に落ちるとか、
ちょっとした段差を飛び降りるとか、

落下そのものでなくても、
坂道を自転車で降りるときとか
ジェットコースターに乗ったときとか
でも同じような体験ができます。

その特徴は、「段々スピードが上がる」という事ですね。

自由落下現象は、時間とともに速さが変わりますが、「速さの変わり方」は変わりません。

なんか、一休さんのとんち問答の様なこと言っていますが。
自由落下現象の速さについては、表題の通り、
”自由落下現象は、時間とともに速さが変わりますが、「速さの変わり方」は変わりません。”
となります。

本当は、ある高さ、例えば10mの所からものを落とすというようにするのが現実的なのですが。
ここはあえて、物を落とす場所を0mとしてやることにします。
(ちなみに、世間一般で高さ〇〇mというときは地上高の事を指すようで、その建物が建っている場所の地面を0mとしています。)
そして、位置の代わりに距離、つまり移動した量を使用します。
これは全て、マイナスを避けるための手法ですね。

落としたものが落とされてから移動した距離をL m(メートル)。
落としてからの時間をt 秒とすると。
\(L = 4.9t^2\)
となります。
という事は、
0秒後の距離は0 m
1秒後の距離は4.9 m
2秒後の距離は19.6 m
3秒後の距離は44.1 m
4秒後の距離は78.4m
となります。

時間0秒後から1秒後の1秒間の移動距離が4.9 mなのに対して、1秒後から2秒後の1秒間では移動距離は 19.6 – 4.9 = 14.7mになります。
ついでに2秒後から3秒後の1秒間は移動距離は、24.5m、3秒後から4秒後の1秒間は移動距離は34.3 mです。
全て時間は同じ1秒の変化なのに、その間に動いた距離が違うわけですね。
「微分について 1」を思い出してほしいのですが。
速さ = (距離の変化量)/(時間の変化量)
でした。
よって、
時間0秒後~1秒後の間の速さは4.9/1 = 4.9 m/s(メートル毎秒)
時間1秒後~2秒後の間の速さは14.7 m/s
時間2秒後~3秒後の間の速さは24.5 m/s
時間3秒後~4秒後の間の速さは34.3 m/s
になります。
時間とともに速さが変わっているのがわかりますね。

さて、ここで、0秒から1秒後の速さから1秒後~2秒後の速さまでの「変化」を見てみます。
とりあえず、速さの単位は全てm/sなので省略します。
0秒時~1秒後から時間1秒後~2秒後までの速さの変化は14.7 – 4.9 = 9.8
1秒時~2秒後から時間2秒後~3秒後までの速さの変化は24.5 – 14.7 = 9.8
2秒時~3秒後から時間3秒後~4秒後までの速さの変化は34.3 – 24.5 = 9.8
で、3つとも9.8になります。
つまり、時間の変化量が同じなら、速さの変化量も同じ。

最初に言った、
”自由落下現象は、時間とともに速さが変わりますが、「速さの変わり方」は変わりません。”
という事がわかりました。

この「速さの変わり方」というのを「加速度」と呼んでいます。

生活の中で「加速」というのは何気なく使っていますが、「加速度」といって自然科学の中で使った場合は、「速さの変わり方」という意味になります。
自然落下の様に、「速さの変わり方=加速度」が変化しない運動を、「等価速度運動」と言っています。

このように、位置、速さ、加速度というのが
・「位置の変わり方」が「速さ」
・「速さの変わり方」が「加速度」
という関係になっているのがわかっていただけたでしょうか。

ここまで来て、そろそろ皆さん焦れてきたでしょう。
「一体いつになったら微分の話になるんだ!」
ってね。
そんな皆様、お待たせしました、そろそろ微分の話になります。

先ほどの自由落下の速さの変わり方で出てきた9.8ってなんでしょう?

0秒時~1秒後から時間1秒後~2秒後までの速さの変化は14.7 – 4.9 = 9.8
1秒時~2秒後から時間2秒後~3秒後までの速さの変化は24.5 – 14.7 = 9.8
2秒時~3秒後から時間3秒後~4秒後までの速さの変化は34.3 – 24.5 = 9.8

というものをお見せしました。
時間の変化を1秒にそろえたものですね。
それではいったい、ここに出てくる「9.8」というのは、自由落下する物体の距離(=初めの位置からの距離)と時間の関係をグラフに取ったときにどのようなものでしょう。

グラフの取り方は最初に言ったように、マイナスが出ないように工夫します。
つまり、位置の代わりに「最初の位置からの移動距離」とします。
そして、横軸に時間、単位は秒、縦軸に距離、単位はmとします。
そして、時間が0, 1, 2, 3, 4秒の所の点を取っていきます。
0秒の時は距離が0 mで、1秒後は距離が4.9 m、2秒後は19.6 m、3秒後は44.1 m、4秒後は78.4 mですから、
(0, 0) (1, 4.9) (2,19.6) (3, 44.1) (4, 78.4)
の4点を取って直線で結ぶことになりますね。
やってみるとわかりますが、4秒後がかなり大変です。1目盛りが何メートルかを考えてグラフを書かないといけません。
で、やってみると、だんだん傾きが急になるカクカクしたものになるはずです。
隣り合う直線の傾きの差、これが9.8だったんですね。

これ、時間の間隔0.5秒にしてみたらどうでしょう?
相変わらずカクカクしてますが、カーブっぽくなるのがわかるでしょう。
ちなみに、
(0.5, 1.225) (1.5, 11.025) (2.5, 30.625) (3.5, 60.025)
の4点を追加することになります。

この辺から時間の単位の秒と距離の単位のmを省略して書くことにします。(理由は面倒だから)
各点での距離と速さは以下の通りです。

1. 時間が0から0.5に変化したとき、距離は1.225 – 0 = 1.225  よって速さは1.225 / 0.5 = 2.45
2. 時間が0.5から1に変化したとき、距離は4.9 – 1.225 = 3.675  よって速さは3.675 / 0.5 = 7.35
3. 時間が1から1.5に変化したとき、距離は11.025 – 4.9 = 6.125  よって速さは6.125 / 0.5 = 12.25
4. 時間が1.5から2に変化したとき、距離は19.6 – 11.025 = 8.575  よって速さは8.575 / 0.5 = 17.15
5. 時間が2から2.5に変化したとき、距離は30.625 – 19.6 = 11.025  よって速さは11.025 / 0.5 = 22.05
6. 時間が2.5から3に変化したとき、距離は44.1 – 30.625 = 13.475  よって速さは13.475 / 0.5 = 26.95
7. 時間が3から3.5に変化したとき、距離は60.025 – 44.1 = 15.925  よって速さは15.925 / 0.5 = 31.85
8. 時間が3.5から4に変化したとき、距離は78.4 – 60.025 = 18.375  よって速さは18.375 / 0.5 = 36.75

いよいよ速さの変化についてみますと。
ただし、起点の間が1秒になるようにとってみます。
(この1という数字は特別な意味があります。単位〇〇というような使われ方がされて、基準になる量として使われます)
つまり、0から0.5の時の速さと、1から1.5の時の速さの差を見るという事です。
1. から3.の差が9.8
2. から4.の差が9.8
3. から5.の差が9.8
4. から6.の差が9.8
5. から7.の差が9.8
6. から8.の差が9.8
見事にすべて9.8になりました。

実は、時間の間隔をもっと短くしても、起点の間を1秒で統一すれば速さの変化は常に9.8になります。
9.8とは、「単位時間(=ここでは1秒)あたりの速さの変化の仕方は、どの時間であっても必ず9.8になる」という意味を持っていたことになります。

どうですか?最初のころに行っていた、「微分とは細かく分けて考えること」というところに近づいているでしょう?

ところで、ここまで落下運動で出してきた「速さ」は、「ある期間の途中を無視した時の速さ」ですね。

ところで、ここまで1秒間とか0.5秒間とか、ある幅の時間について速さを見てきました。
これはつまり、
「その間の速さの変化はとりあえず無視して、両端だけ見たときの速さ」
という事になります。

その「途中を無視した速さ」を起点となる時間に紐づけると考えて、時間をT、時間の変化量をa、時間Tの時の距離をL(T)、時間Tの時の速さをV(T)とすると、
\(V(T) = (L(T+a) – L(T))/a\)
と表すとします。

先ほどの例は、このaを1にしたり0.5にしたりしたってことですね。
ところで、途中を無視したくない、と思ったらどうしたらいいでしょう。
aをもっと細かくすれば、無視する部分は小さくなりますよね。
いっそ、aを0にしたら・・・でも、それはできません。
\(V(T) = (L(T+a) – L(T))/a\)
の式を見ると、aで割っていることに気づきますね。
そして、0で割るというのは、数学(算数)では禁じ手です。

「なら、”aをすご~く小さくして、ほとんど0だけど0じゃないよ”としたら大丈夫じゃね?」
と思ったあなた、大正解です。
微分とは、この「ほとんど0だけど0じゃないもので割る」というのが基本です。

そして、こういう「0じゃないけどほとんど0」というものに\(d\)を付けるのがお約束になっています。
ちなみに、もうちょっと大きい物で”差”であることを言いたい時は\(\delta\)を付けることになっています。
このあたりを使うと先ほどの
\(V(T) = (L(T+a) – L(T))/a\)

\(V(T) = \delta L(T)/\delta a\)
となった後に
\V(T) = dL(T)/da\)
となります。
時間がTだよという事をことさらにいう事に意味がなければ、Tを取ってしまって、
\(V = dL/da\)
aというのが時間の変化量だという事で、時間を意味するtを代わり使い、Lは一般的な位置を表すxを使うようにしたら、
\(V = dx/dt\)
となります。
実はこれが微分の書き方です。

もちろん、いろいろな記法はありますが、そのすべてが「こういう意味を別の便利な書き方しますね」というものです。
そして、場面ごとに便利な書き方は違ってくるので、あっちゃこっちゃでいろんな書き方を見て、混乱したりするんですね。
今後、微分と言えば上の式、上の式が絡んだら微分がらみ、と思ってください。

次回からは、微分と普通の計算の関係のようなものから、もう少し踏み込んで「テンソルでの微分のようなもの」あたりまでを見ていきます。

このあたりから、大学の一般教養で習う基礎解析とか、電磁気学で習うナブラベクトル、波動方程式のブラ・ケットベクトルあたりになっていく予定です。
でもね、そんなに身構えなくても大丈夫です。
難しそうなツラをしていますが、そんなに特別なことをしているわけではないので。
(テンソルのほうが、第一印象はそうでもなかったのに、実際は100倍ほど凶悪な奴でしたからね。)