ここから本丸の「テンソル」に入っていきます。まずテンソル積について。

最初にお話しした暗号分、
「テンソル空間とは、1種類のベクトル空間Vとその双対ベクトル空間V*のテンソル積で作られるテンソル積空間の事」
を思い出してください。
この中で、すでに理解できたキーワードを上げていきます。

空間・・・「何か」の集まり。〇〇空間といったときは、「〇〇の集まり」という意味。
ベクトル・・・「数」などの「計算可能なもの」をまとめて扱ったもので、10の規則に従うもの。一般的に私たちが「やじるし」でイメージしているもの。縦書きで表す。
双対ベクトル あるベクトル(縦書き)について、線形汎関数となるような定数倍の係数をベクトルとして扱うもの。横書きベクトル。
線形汎関数 あるベクトルを他のベクトル(といっても同じものでもOK)に変換する装置。変換してできたものを写像という。
変換 コネコネの事。

どうですか?すでに残っているのは、「テンソル」というという言葉のみになっていますよね?
なので、ここから一気に本丸である「テンソル」について理解していきます。

「テンソル空間」というのは「テンソルの集まり」のはず。そして暗号分では「テンソル空間とは、テンソル積の空間」となっている。という事は・・・!

ここで暗号文をよく読みましょう。
「テンソル空間とは、1種類のベクトル空間Vとその双対ベクトル空間V*のテンソル積で作られるテンソル積空間の事」
途中のウニャウニャを飛ばして読むと、
「テンソル空間とは、テンソル積空間の事」
となります。

前半部分の「テンソル空間とは、」を今までの知識で言い換えると、「テンソルの集まりとは、」と読み替えられます。
後半部分の「テンソル積空間の事」を今までの知識で言い換えると、「テンソル積の集まりの事」と読み替えられます。
前半部分と後半部分が等しいと言っているのですから、前半でいう「テンソル」は後半でいう「テンソル積」の事になります。

この「テンソル=テンソル積」というのは、この文章中だけで正しいものとなります。
他のところでいう「テンソル」は違う意味の事がありますので、注意してください。
こういう、違う意味で同じ言葉を使うことは案外よくある事なので、「どんな場面で使っているか」に注意しながら読むと良いでしょう。

ここから、「テンソル」の理解のためには、「テンソル積」を理解すればよいという事になります。

問題を簡単にするために、4次元に絞ってテンソル積を考えてみましょう。

まずはwikipediaから、テンソル積の説明となる暗号を映しておきましょう。(ちょっと意訳しておきます)
「共通の体\(F\)状のm次元ベクトル空間\(V\)とn次元ベクトル空間\(W\)について、\(V\)の基底\(B\)(これはm個の要素を持ちます)と\(W\)の基底\(B’\)(これはn個の要素を持ちます)を取るとき、\(B\)と\(B’\)の直積\(B \times B’\)が作るmn次元の自由ベクトル空間を、\(V\)と\(W\)のF上におけるテンソル積と呼ぶ。」
・・・毎回思いますが、本当に伝える気はあるのでしょうか?
と思う私が力不足なだけなんですけれど。

気を取り直して、読み解いていきましょう。
その前に。
我々は、とりあえず一般相対性理論に使うテンソルを習得したい、というところはいいでしょうか。
一般相対性理論において、この世は4次元空間であり、出てくるの4元ベクトル、つまり要素が4の物だけです。
だから、上の文章でいう、m次元とかn次元というのはどちらも4次元という事にします。

なので、最後にできる自由ベクトル空間も、4,4次元の自由ベクトル空間、という事になります。
この「自由ベクトル空間」とは何者か?とか、何が「自由」なのか?とかは、疑問がわきますが。とりあえず今はスルーしましょう。

でも、ただスルーするのはちょっとアレなので、今の私が推測している意味を書いておきますと。
ベクトル空間\(V\)と\(W\)はそれぞれ4つの基底を持ちます。
という事は、その組み合わせは4 x 4 =16個あるわけですね。
この集まりという意味で「空間」と言っていると思われます。
相変わらず、何が自由なのかはわかりませんが。

次は基底という言葉の復習。

基底という言葉は、私の物理数学サイトの「ベクトルについて」書いているところで説明していますが、一応軽く触れておきます。
基底というのは、そのベクトル空間上のベクトルを表すことのできる最小の単位です。
ベクトルの次元数と同数のベクトルの組になります。

もっとぶっちゃけましょうか。
3次元空間においては、縦・横・高さの組が基底の1種になります。
なぜなら、縦・横・高さを決めれば、3次元空間のすべてのベクトルを表せるからです。
もう一つ付け加えると、必ずしも直行していなくても構いません。
逆に直行している場合は、特別に「直行座標系」なんていう名前がついたりします。

4次元なら、3次元+”時間の関係した何か”で4つになります。

扱うものが4元ベクトルなら、その要素は4つですよね。
という事は、添え字を4つ使えば表せます。
添え字は今まで通り、0~3を使いましょう。

添え字は決まりましたが、本体の”文字”をどうするか?
wikipediaさんとか、いろんな数学の本とかではギリシャ文字を使っているようです。
(\(\xi\)(グザイとかクシーとか読みます)や\(\eta\)(イータと読むことが多いです。)などですね。
でも、ここはたとえ紛らわしくても、使い慣れたアルファベットで行きましょう。

ベクトル空間が\(V\)と\(W\)ですから、\(V\)の基底(の一つ)を\((v_0, v_1, v_2, v_3)\)として、\(W\)の基底(の一つ)を\((w_0, w_1, w_2, w_3)\)としましょう。

直積について。

まず、直積は、「数」にはなりません。
スカラーにならない、といった方がいいでしょうか。
実は、ベクトルにすらなりません。
ではどんな形になるかというと、「行列の形」になります。

そして、ここで考えている4元ベクトル同士であれば、4行4列の行列になります。
で、行列の1つ1つを「成分」というのですが、この成分も「数」である場合と、そうでない場合があります。
ここでは、数になる場合のみ考えます。
余禄:ちなみに、数にならない場合は、成分が「数の組」(ベクトルの様なもの)になります。

では、成分が数になる場合の直積\(V \times W = (v_0, v_1, v_2, v_3) \times (w_0, w_1, w_2, w_3)\)がどうなるかを見てみましょう。
それは、こうなります。

\( \begin{bmatrix} v_0w_0   v_0w_1  v_0w_2  v_0w_3 \\v_1w_0  v_1w_1  v_1w_2  v_1w_3 \\v_2w_0  v_2w_1  v_2w_2  v_2w_3 \\v_3w_0  v_3w_1  v_3w_2  v_3w_3\end{bmatrix} \)

縦に\(V = (v_0, v_1, v_2, v_3) \)が並んでいて、横に\(W = (w_0, w_1, w_2, w_3)\)が並んでいる感じです。
実は、この形は\(V\)が縦ベクトルで\(W\)が横ベクトルとしたときの、\(V \cdot W\)の形なんですね。
こうしてできたものが、テンソル積であり、それはベクトル空間の一種になっているという事です。

そして、勝負を決める一手。テンソルとはテンソル積の元である、ということ。

まず、元という言葉が使われる場面の例として、「ベクトル空間の元」というものを考えます。
「ベクトル空間の元」は言うまでもなく「そこに含まれるベクトル」です。

という事は、「テンソル積空間の元」はすなわち「そこに含まれるテンソル」という事ですね。
つまり、テンソル空間が16パターンを持っているので、その1つ1つがテンソルという事になります。

ただ、2つのベクトル空間がどんなのでもいいかというとそうではなく。
途中で読み飛ばした暗号の真ん中部分に、最後のキーワードが見えてきます。

テンソルがわかったので改めて最初の暗号を見ると、「双対」というキーワードが見えてきます。

「テンソル空間とは、1種類のベクトル空間Vとその双対ベクトル空間V*のテンソル積で作られるテンソル積空間の事」
真ん中の省略したところに「双対」というキーワードが見えてきました。

実はこの「双対」という言葉は、テンソルその1からずっと出てきていながら、敢えて対峙することを避けてきた難敵なのです。
「双対」ここでは「双対ベクトル空間」として使われるこの言葉。
テンソルにおける、ラスボス的存在と言えるでしょう。

次回、そのラスボスに挑み突破するまでをお伝えする予定です。