ちなみに、今回紹介する2つの事柄には、ほとんどつながりがありません。(というか、この2つはちょっと流れから外れた感じのものになります)

今までやってきた「重心にかかる力」に関するものと、今回紹介する2つの事柄にはあまり接点がありません。
とはいえ、どちらも力学では非常に重要な項目となります。

そんな孤高の2項目を今回まとめてお届けいたします。

速度の合成・分解について 1 「実際の速度の合成・分解」

前の項でも述べましたが、2つのパターンに分かれます。
「実際の速度の合成・分解」と「相対的な速度の合成・分解」ですね。
それでは一つずつ考えていきましょう。

まず「実際の速度の合成・分解」からです。

※実は、こ知らの方は、すでに使っています。
(物の水平発射とか斜め投げ上げの時です)

とりあえず数直線上での動きを見ていきます。
物体Aが速度\(x\) (\( m/s\))で動いているとして。
さらに、”床”そのものが速度\(y\) (\( m/s\))で動いているとすると。
そこから見たときの物体Aの速度は\(x + y\) (\(m/s\))になります。

もちろん、速度なので符号(+とか-)が関係しますが、そんなことには関係なく速度は足し算となるわけですね。
これはまだ合成だけなんですが。
動きを平面上で見るとすると、速度の足し算はベクトルの足し算となります。
式は変わりません。あえて言うなら
\(\vec{x} + \vec{y} \)になるという事ですね。

そして、分解はいくつかの方向に平行四辺形で分ける行為になります。
実は、何も言わずに物体の「斜め投げ上げ」の時に、速度を水平方向と垂直方向に分けて考えていました。
あれと同じようにするのですが、分解する方向は座標軸でなくてもいいのです。
しかも、2個でなくても3個でも4個でも大丈夫です。
これは、力のつり合いとかを考えるときにやっていたことと同じになります。

速度の合成・分解について 2 「相対的なの速度の合成・分解」

次に「相対的な速度の合成・分解」についてです。
これには観測者の速度が関係してきます。

まずこれも数直線上で考えます。
数直線上を速度\(x\) (\(m/s\))で動く物体Aがあるとします。
この物体Aを、同じく数直線上を速度\(y\) (\(m/s\))で動く観測者Bから見ると、その速度は
\(x-y\) (\(m/s\))となります。

反対に観測者Bから速度\(a\) (\(m/s\))で動いていると見える物体Aを別の観測者Cから見た場合。
その速度\(c\) (\(m/s\))は、観測者Cから見た観測者Bの速度\(b\) (\(m/s\))と観測者Bから見た物体Aの速度\(a\) (\(m/s\))の和になります。

実は同じことを言っているのですが、スタートとゴールが逆になっているんですね。

速度の合成と分解 おまけ。

実はここでの速度の合成と分解は、ガリレオの相対性原理というものになります。
しかしこれ、物体や観測者の速度が光の速度に近くなると成り立たなくなります。
そのあたりを考えたのが、アルベルト・アインシュタインさんが発見した特殊相対性理論になります。

かなり一般的な知識になっているので紹介しておきますが、
「光の速度は観測者(慣性系)によらず一定」
「光の速さに近くなると、その観測者(慣性系)の時間はゆっくりになる」
という事になります。
もう一つの有名な式「\(E = mc^2\)」はその理論を展開する過程で出てきた結論ですね。

高校物理をしっかり学んだあとに、チャレンジとして勉強してもよいかもしれません。
ちなみに、特殊相対性理論については別にシリーズとして取り上げています。

特殊相対性理論 目次

力のモーメントについて 1 剛体とは 重心とは 作用線とは

力のモーメントについて考えるときには、剛体、重心、作用線というものを考えないといけません。
これらを順に追っていきましょう。

剛体と言うのは剛という感じが示す通り、「硬い」ものという事です。
ちなみに英語ではrigid bodyという事で、rigid=硬直した という単語を含んでいます。
「硬いってどのくらいよ?」と思われるでしょうけど、答えは簡単。
「絶対に変形しないくらい硬い」という事です。
そんな物質は存在しませんが、「その物が変形したり壊れたりしないところまでで考える」という事と考えてください。

次に重心です。
おおよその皆さんのイメージ通り、「バランスが取れている点」です。
もう少し詳しく言うと、「剛体を1点で刺させることのできる点」ですね。
つまり剛体の重力がここにかかっていると考えてよい点になります。
複雑な形の重心は、「考えやすい部分に分けて考えたときの、”すべての部分の重心”の重心」になります。
そのままでは考えにくい形を考えやすい形に分割し(球とか円柱とか直方体とか何とか錐とかですね)、それらすべての重心を出し、そのすべての重心の重心を出すという事になります。
このあたりはどこかのタイミングでまとめてじっくりやるとします。

最後に作用線です。
これは注目している力と平行でその始点を含む線となります。
簡単に言うと、力をベクトルで表した時に、その前後方向に伸ばした直線の事ですね。

力のモーメントについて 2 どんな時に力のモーメントを考えて、力のモーメントが発生するとどうなるのか?

ずばり言いますと、以下の2つが成立する場合です。
1. 力が加わる物体が剛体である。
2. 力の作用線上に物体の重心がない。
こうして力のモーメントが発生すると何が起こるかと言うと、「回転」が起こります。

ただ、これはかかっている力が1つの時です。
複数の力がかかっている場合、力のモーメントが釣り合っているかどうかを確かめる必要があります。
では力のモーメントのつり合いとは何か?
そのあたりを議論するために、いよいよ本格的に力のモーメントを考えていきましょう。

力のモーメントについて 3 力のモーメントの計算

力のモーメントは単独では出てきません。
必ず「ある点を中心にした」力のモーメントという表現になります。
「ある点ってどこよ?」と言いたくなるでしょうけど、実はどこでもいいのです。
なぜか?
それは、回転と並進を組み合わせて考えた場合、回転中心はどこにとっても良いからです。

今、剛体\(\alpha\)がある点Aを中心に回転して並進していないように見えるとします。
この剛体が反時計回りに90°回転した状態を剛体\(\alpha’\)とします。
この状態を別の点Bを回転中心にした場合でみてみましょう。
とりあえず、剛体\(\alpha\)を点Bを中心に反時計回りに90°回転させた状態を剛体\(\beta\)とします。
すると、その時剛体\(\alpha’\)と剛体\(\beta\)は、位置こそ違えども向きは同じになっています。
後は剛体\(\beta\)を並進させれば、剛体\(\alpha’\)とぴったり重なる状態にできます。
こうして点Aを中心にした回転と並進なしの移動と、点Bを中心にした回転+並進ありの移動が同じになりました。

さて、ここまで来てから、ある点Aを中心にした力のモーメントをどう表すかを考えます。
その前に確認ですが、力をベクトル(矢印)で表す場合、力がかかる点(作用点)を始点として方向を矢印の向き、大きさを矢印の長さで表しました。
ここからは、この書き方で力を表現している前提で話を進めます。
考え方には2つありますので、それぞれ説明します。

パターン a).
1.まず中心とした点Aから、今考えている力\(\vec{F}\)の矢印の始点Bに直線\(L_1\)を引きます。
2.力\(\vec{F}\)を、直線Lと平行なものと垂直なものに分解します。
3.先程分解した力の内で、直線\(L_1\)に垂直な方の大きさを\(F’\)とし、線分ABの長さを\(l\)とします。
4.力\(F\)の点Aを中心とした力のモーメント\(M\)は、\(F’ l\)になります。

パターン b).
1.今考えている力\(\vec{F}\)の作用線\(L_2\)を引きます。
2.点Aから作用線\(L_2\)に垂線を下ろし、その足を点B’とします。
3.線分AB’を\(l’\) *1 とすると、力\(\vec{F}\)の大きさを\(F\)とすると、力\(\vec{F}\)の点Aを中心とした力のモーメント\(M\)は、\(F l’\)になります。

「おいおい、2つは全く別物じゃないのか?」と思ったあなた、計算してみれば同じだという事がわかるんですよ。
疑り深い方もいらっしゃるでしょうから、代わりに私が計算してみましょう。
ここでパターン a)とパターン b)で
点Bは共通、線分ABの長さ\(l\)は共通、力\(\vec{F}\)の大きさ\(F\)は共通
とします。
直線ABの垂線ととベクトル\(\vec{F}\)のなす角が\(\theta\)とすると、

パターン a)において
\(F’ = F \cos \theta\)ですので、
\(M = F’ l = l F \cos \theta\)
となります。

パターン b)において
\(l’ = l \cos \theta\)ですので、
\(M = F l’ = l F \cos \theta\)
となります。
ね?一緒でしょ。

*1:この長さ(力の始点から作用線に下ろした垂線の長さ)を「うでの長さ」といいます。

力のモーメント 4 力のモーメントの性質

ちなみに力のモーメントはベクトルではありません。
つまり向きがないんですね。
でも、先ほどの「力のモーメント 3」で気づいたでしょうか。
このまんまだと、押した時と引いた時で力のモーメントが同じになってしまうことに。

実はこれではまずいんですね。
なので、押したのか引いたのかを区別するために、符号だけはつけることになっています。
ただ、「押す」とか「引く」だと人によりまちまちで方向が決まらないので、回転方向によって符号をつけることにしました。
回転中心に対して
・反時計回りの方向に働くものが+
・時計回りの方向に働くものが-
になります。

力のモーメント 5 力のモーメントのつり合い

「力学について 5」で、力のつり合いについて学びました。
ここでは力のモーメントのつり合いを学びます。

おさらいですが、力が釣り合うというのは、合力が0という事でした。
合力が0の時、物体は静止または等速直線運動をするんでしたね。

力のモーメントが釣り合うという状態は以下の状態です。
「ある点の周りの力のモーメントの合計が0」
ある点ってどこ?に対して、”どの点でも”と答えます。
え?っと思われるかもしれませんが。
力のモーメントが釣り合っている=どの点を中心にしてみても回転しない
という事なので、問題を解く場合には都合の良い場所を回転中心にとりましょう。
この時の基準は「回転中心にかかる力は、力のモーメントが0になる」という事です。
(0を掛け算すれば相手が何であっても0ですから)
「この(またはこれらの)力のモーメントは考えたくないなぁ」
というものがあれば、その力の始点(力点)を回転中心にしましょう。
考えたくない力のモーメントの例としては、”分からない力のモーメント”とか、”なんか1点にたくさん力がかかっているときの、その力のモーメント”とかですかね。

さて、ここで一つ”約束”です。
高校物理においては、”回転運動は扱いません”。
回転させるものを考えるのに回転運動を扱わないというのは妙な感じがしますが、カリキュラム上そうなっているので従いましょう。
(回転運動は大学で習います。というか、うっすら習った記憶があります。)
なので、ここでは「物が回転しない=力のモーメントがつり合っている=どの点の周りの力のモーメントも合計が0」という事を前提として話を進めます。

力のモーメントについて 6 てこの原理との関係。

てこの原理と言うのは、支点・作用点・力点において、力点 – 支点の距離を\(L_1\)、作用点 – 支点の距離を\(L_2\)、力点にかける力を\(F\)、作用点に出る力を\(F’\)としたときに、
\(L_1 F = L_2 F’\)・・・①
の関係があるという事です。

これは、「支点を中心にした、作用点の力のモーメントと力点の力のモーメントが同じ」という事っぽいですね。
力のモーメントと違うのは、①が大きさだけを考えて向き(というか符号)を考えていない事。
なので、このてこについて力のモーメントで考えてみましょう。

力点に力を掛けたときにてこが動かない=力のモーメントが釣り合っている というのはどういう状態かと言うと、

作用点が出す力では動かないものがそこにある。

というものです。
この時、作用点が動かない物体に与える力(作用)と同じ大きさかつ正反対の力をてこの作用点が受けます(反作用)。
てこにかかる力は次の3つ
1. 力点にかける力\(F_1\)
2. 作用点が動かないものから受ける反作用\(F_2\)
3. 支点がてこを支える力\(F_3\)
回転中心として選ぶ候補は力点、作用点、支点のどれかです。
ゴールをてこの原理の式とするならば、回転中心は支点の一択となります。
なぜなら、この式には距離が2つ出てきますが、どちらも支点を含んでいるから。
という事で、支点の周りでの力のモーメントの合計が0という事で作用点に働く力の大きさを見ていきます。

あと、力のモーメントは符号を持つ、つまり力の掛かる方向が重要なので、力点にかかる力で発生する力のモーメントが負になるようにします。
つまり、支点を中心にてこを時計回りに回転させる方向ということですね。
ついでに、力点にかける力の大きさを\(F\)で力点 – 支点の距離を\(L_1\)として支点の周りにおける力点にかける力のモーメントを計算すると
\-(F L_1\)・・・②
となります。
(マイナスがついているのは、そのように力の向きを取ったからですね。直前に言っていますよ。)

これにより、作用点の力の向きは時計回りの方向になるので、それにより受ける反作用は反時計回り、つまり正となります。
こちらもついでに、作用点 – 支点の距離を\(L_2\)、作用点にかかる力の大きさを\(F’\)としたときの支点周りにおける作用点に働く力のモーメントを計算すると、
\(F’ L_2\)・・・③
となります。

②と③の合計が0という事で、
\(F’ L_2 – F L_1 = 0 \Leftrightarrow F L_1 = F L_2\)
となり、式①になりました。

小学校の時に習ったてこの原理は、支点の周りの力のモーメントが釣り合うところから出てきていたんですね。

さて次は、ばねについて詳しくご紹介します。

色々な力でばねを紹介したときに省略してしまったところがいろいろあります。
特に、ばねを連結させるとどうなるのか?というところですね。
そのあたりを中心に1回でまとめてみたいと思っています。