出発点は「ベクトルの長さは変わらない」ということ。

ここまでの流れで、g○○とか色々出てきたので、ざっとおさらいします。

なんにしても、出発点は「ベクトルの長さは変わらない」ということ。
正しいかどうかはおいといて、イメージは「物差しが変わっても、つまようじの長さは変わらない」ということでした。

特殊相対性理論では、この普遍のベクトルを\((ct, x, y, z)\)としていました。
ただ、こういう書き方だとアルファベットをたくさん使うので、
\((x^0, x^1, x^2, x^3)\)
と書くことにしていました。
さらに、これだとスペースが沢山いるので、
\(x^i : i=0\verb|~|3\)
と書くことにしていました。

さらに、ここに出てきたような「普通の人が矢印で考えられるベクトル」を反変ベクトルと呼ぶことにしていました。
それとは別に、ベクトルの要素に係数をかけて足し算し、スカラー(数値のこと)にするものを「線形汎関数」と呼びました。
この線形汎関数は、あるベクトルと、その要素に掛け算した係数をベクトルで表したものの内積で表せました。
この係数をベクトルで表したものを、双対ベクトルと呼びました。

反変ベクトルについては、大きさを考えることに意味があります。
この反変ベクトルの大きさの2乗を出すような線形汎関数を考えた時、その双対ベクトルに当たるものを共変ベクトルと呼ぶことにしました。

反変ベクトルは添え字を上に、共変ベクトルは添え字を下に書くことにしました。

共変ベクトルは反変ベクトルの変換で表せます。

共変ベクトルは、反変ベクトルがあって初めて出てくるものです。
そして、その出す方法は、反変ベクトルの変換でした。
その変換を表すものを高校時代は行列と呼びましたが、今後はそれをテンソルと呼ぶことにしました。

テンソルは反変成分と共変成分を持つのですが、共変ベクトルを反変ベクトルに変換するテンソルは、2階の共変テンソルです。
ちなみにここで出てきた階というのは、添え字の数です。

この共変ベクトルを反変ベクトルに変換するテンソルを計量テンソルと呼ぶことにして、\(g_{\mu \nu}\)と書くことにしました。

ここまでを式で書くと、
<反変ベクトル\(A^{\mu}\)の大きさ>を\(dS\)とすると、\(dS^2\)はこの反変ベクトルに対応する共変ベクトルを掛け算することで出てくるので、
\( dS^2 = A_{\mu} \cdot A^{\mu}\)
となります。

\(A_{\mu} = g_{\mu \nu} A^{\nu}\)
なので、
\( dS^2 = A_{\mu} \cdot A^{\mu} = g_{\mu \nu} A^{\nu} A^{\mu} \)
※最後の項では\(\cdot\)を書かないことにしています。
というのも、今後は書かないやり方が一般的になるからです。

で、下付きがあれば上付きがあったりする世の中ですが。

反変ベクトルから共変ベクトルに変換する式も考えます。

共変ベクトルから反変ベクトルに変換できるなら、反変ベクトルから共変ベクトルに変換することもできるはず。
まあ、実際いろいろな数学的あれこれはありますが、確かにできます。
このあたり、とっても単純に説明するなら「反変ベクトルと共変ベクトルは1対1の関係だから」という事でいいと思います。

さて、それをとりあえず納得したところで、その式がどういう形になるかというのを考えてみます。
とっても単純に考えてみると、
「共変ベクトルから反変ベクトルへの変換で、添え字2つが下付きのテンソルを使ったのだから、反変ベクトルから共変ベクトルへの変換では、添え字2つが上付きのテンソルになるだろう。」
とならないでしょうか。
そういう観点で見てみますと、
\(A^{\mu} = g^{\mu \nu} A_{\nu}\)
となります。

このあたり、逆行列とかいろいろ考えてもいいのですが、まずは単純に考えるといいと思います。

2つのg○○について、一方をもう一方に代入してみたいけど、1つの項で3つの同じ添え字が使えないから・・・

\(g_{\mu \nu}\)と\(g^{\mu \nu}\)について、
\(A_{\mu} = g_{\mu \nu} A^{\nu}\) ・・・①
\(A^{\mu} = g^{\mu \nu} A_{\nu}\) ・・・②
の2つの式が出てきました。

これ、①に②を代入したらどうなるか、ってなりますよね。
そうするためには、②の\(\mu\)と\(\nu\)を入れ替えないといけません。
で、これはやっていい事でした。
\(A^{\nu} = g^{\mu \nu} A_{\mu}\) ・・・③
右の項で\(\mu\)と\(\nu\)が入れ替わってない、ですって?
大丈夫
\(g^{\mu \nu} = g^{\nu \mu}\)
ですからね。
では、①に③を代入ってしたいところですが、ちょっと待ってください。
「1つの項に同じ添え字が3つ以上あってはいけない」というルールがありました。
このまま①に③を代入すると、右の項に\(\mu\)が3つになってしまいます。

ならば、③の\(\mu\)を\(\rho\)に変えてから代入すればいい、となります。
そして、これもやっていい事でした。
\(A^{\nu} = g^{\rho \nu} A_{\rho}\) ・・・④
今度こそ、①に④を代入してみます。
\(A_{\mu} = g_{\mu \nu} A^{\nu} = g_{\mu \nu}g^{\rho \nu} A_{\rho}\)・・・⑤

さてここで、添え字の上下でどんな計算をしていたかを見てみましょう。

テンソルとベクトルで、上と下に同じ添え字があったときに、決まった変化をしていました。これをテンソル同士にも当てはめてみると。

\(A_{\mu} = g_{\mu \nu} A^{\nu}\) ・・・①
\(A^{\mu} = g^{\mu \nu} A_{\nu}\) ・・・②
を見てみるとですね。
①の場合、
「テンソル\(g\)の下に\(\nu\)、ベクトル\(A\)の上に\(\nu\)がある場合、テンソル\(g\)と\(\nu\)が消えて、残ったベクトル\(A\)の添え字が元々テンソル\(g\)の下付きにあった\(\mu\)になる。」
という変化をしています。
②の場合、
「テンソル\(g\)の上に\(\nu\)、ベクトル\(A\)の下に\(\nu\)がある場合、テンソル\(g\)と\(\nu\)が消えて、残ったベクトル\(A\)の添え字が元々テンソル\(g\)の上付きにあった\(\mu\)になる。」
という変化をしています。

これが⑤のテンソル同士の時にも当てはめると、
「テンソル\(g\)の下に\(\nu\)、もう一つのテンソル\(g\)の下に\(\nu\)がある場合、上と下の\(\nu\)が消えて、残った下の\(\mu\)と上の\(\rho\)が残って\(g\)の添え字になる」
となりますね。

⑤= \(A_{\mu} = g_{\mu \nu} A^{\nu} = g_{\mu \nu}g^{\rho \nu} A_{\rho}\\
g_{\mu}^{\rho} A_{\rho}\)・・・⑥
となりました。
よく見ると、右の項はさらに\(\rho\)が消えて、左辺と同じ形になります。

⑥についてみてみると、左辺右辺とも下付きのベクトルになっています。
そこに\(g_{\mu}^{\rho}\)がついていて、右辺の添え字\(\rho\)が左辺では\(\mu\)になっています。

実は同じことを、①について行って、その結果を②に代入すると、
\(A^{\mu} = g^{\mu}_{\rho} A^{\rho}\)
となります。

つまり、gの添え字が上と下につくものは、ベクトルの添え字を変えるだけの役割をするという事ですね。

反変ベクトル\(A^{\mu}\)と\(\lambda B^{\mu}\)の足し算でできたものも反変ベクトルです。その大きさはベクトルの大きさだから不変なんですが、そこから2ベクトルのスカラー積が出てきます。

反変ベクトルの和は反変ベクトルです。
よって
\(A^{\mu} + \lambda B^{\mu}\)
も反変ベクトルです。

反変ベクトルの大きさは不変ですので、
\(g_{\mu \nu} (A^{\nu} + \lambda B^{\nu})(A^{\mu} + \lambda B^{\mu})\)
は不変です。
これを展開計算すると
\(g_{\mu \nu} A^{\nu}A^{\mu} + 2 \lambda g_{\mu \nu} A^{\mu} B^{\nu} + \lambda ^2 g_{\mu \nu} B^{\nu} B^{\mu}\)
が\(\lambda\)にかかわらず、不変です。

ちなみに\(\lambda\)に関係ない項と、\(\lambda\)2乗の項は不変です。
(既出です)
よって、\(\lambda\)の項が不変ならいいわけです。
ゆえに
\(g_{\mu \nu} A^{\mu} B^{\nu}\)
が不変となり、これが\(A^{\mu}\)と\(B^{\nu}\)のスカラー積になります。

ここまでで、ベクトルの添え字を、上から下に移す・下から上に移す・文字を変える、という事が出来て、かつ2つの反変ベクトルのスカラー積を計算することができるようになりました。

ここまでで、ベクトルの添え字を、上から下・下から上、に自由自在に移せるようになりました。
さらに、添え字の文字を自由に変えることもできるようになりました。
そして、2つの反変ベクトルのスカラー積を使えるようになりました。

ここから先、これらの技を駆使して計算をしていくことになります。
「ようやくゆがんだ空間を計算するのか!?」
と思ったかもしれませんが、もう少しだけお待ちください。

次にするのは
「ベクトルの、ベクトルによる、ベクトルのための微分」
です。
何のことかわからないかもしれませんが、とりあえず次回をお楽しみに。