とりあえず、4元ベクトルの要素について、\(x\)とか\(y\)とかを使わずに、何番目の要素かを使って\(x_i\)と表すことにします。(ただし\(i\)は0~3)

特殊相対性理論のところで、4元ベクトル(4次元における事象の位置ベクトル)を\((ct, x, y, z)\)としました。
が、ここで5種類のアルファベットを使うのも面倒なので、もっと簡単な方法に切り替えます。

これは、別の「物理数学」の「ベクトル」で説明しましたが、アルファベットは1つに固定して「何番目の要素か」を添え字で書いてやることにします。
つまり、
\((ct, x, y, z)\)
の代わりに
\((x^0, x^1, x^2, x^3)\)
としてやるのです。
いきなり、添え字が上になっているのはあまり気にしないでください。
最初にこの数学の体系を考えた人がこのように書くと決めたから、程度で構いません。
(実は、こうするとゆくゆくいろいろと手抜きができるんですが、それはまた時が来たらお話しします。)

さらに、これを、
\(x^i (i=0, 1, 2, 3) \)
としたうえで、\((i=0, 1, 2, 3)\)というのは省略します。
なぜなら、私たちが今使っている数学は、「一般相対性理論のためのもの」だからです。
一般相対性理論では、4次元を扱うので、要素の数は必ず4つ、0, 1, 2, 3になります。
だから、省略してしまおうというわけです。
※ このあたりが、物理のための数学と、学問としての数学の違いです。
学問のための数学では、要素の数をN個として話を進めていきます。
そして、最後にN=4を代入するというやり方を取ります。

ここで、世界距離\(dS\)を見てみます。

既に紹介した通り、\(dS = \sqrt{-(dx^0)^2 + (dx^1)^2 + (dx^2)^2 + (dx^3)^2}\)でした。
両辺を2乗して、
\(d^2S = -(dx^0)^2 + (dx^1)^2 + (dx^2)^2 + (dx^3)^2\)
という式になりますが、こうすると右辺が常に負になりそうで嫌なので、両辺にマイナスを掛けて、
\(-d^2S = (dx^0)^2 – (dx^1)^2 – (dx^2)^2 – (dx^3)^2\)
としておきます。

注意
この操作をしなくても、今後の議論に問題は出ません。
あくまで「嫌なので」という、いわば趣味で変形していると考えてください。
いくつかの本を読むと、4元ベクトルの要素の並べ方とその要素の符号はそれぞれ2パターンあります。
4元ベクトルのパターンは
\((ct, x, y, z)\)と\((x, y, z, ct)\)
の2種で、要素の符号のパターンは、
「ctだけマイナスで後はプラス」と「ctだけプラスで後はマイナス」
の2種になります。
さらに言うと、4元ベクトルの書き方によって添え字の付け方が変わり、
\((ct, x, y, z)\)は添え字が「0~3」

\((x, y, z, ct)\)は添え字が「1~4」
となります。
どちらのパターンもx~zが1~3になるようになっています。

さらに、いちいちdほにゃららと書くのも面倒なので、手を抜いて
\( dx^0 = A^0, dx^1 = A^1, dx^2 = A^2, dx^3 = A^3\)
としてやると、
\(-dS^2 = (A^0)^2 – (A^1)^2 – (A^2)^2 – (A^3)^2\)
と書けるようになります。

本当は、このあたり、いろいろと意味があります。
「\(A^{\mu}\)が変換されるときに\(dx^{\mu}\)というものになる・・・」
という感じなのですが、今は気にしなくてもいいです。
「ベクトルって、あの、やじるしのやつでしょ」
と言っている方のイメージする”ベクトル”は上の「\(A^{\mu}\)が・・・」というそれを満たします。
もっと、ざっくり言うと
「一般の方(私も含めた数学とか物理とかを特にふか~く学んだのでない方)のイメージするベクトルなら、余計なことを考えなくても大丈夫です」
という事になります。
そして、私たちは4次元というのをイメージしにくいのですが、それでも4元ベクトルは(私も含めた)一般の方がイメージする”ベクトル”の性質を持っています。

さらに手抜きしたいので、内積で表せるように工夫します。

ところで、数学には便利なツールがありまして、「ベクトルの内積」というものです。
高校くらいだと、\(\boldsymbol{A} \cdot \boldsymbol{B}\)なんて表しますが。
でもって、平面ベクトルで有名な(高校生で習う)公式として2つ出てきまして、

  • \(\boldsymbol{A} = (a_1, a_2), \boldsymbol{B} = (b_1, b_2)\)のとき、
    \(\boldsymbol{A} \cdot \boldsymbol{B} = |\boldsymbol{A}||\boldsymbol{B}|cos\theta\)
    ただし\(\theta\)は\(\boldsymbol{A}\)と\(\boldsymbol{B}\)のなす角度とする。

と、

  • \(\boldsymbol{A} \cdot \boldsymbol{B} = a_1b_1 + a_2b_2\)

といもの。
これは、\(\boldsymbol{A}\)と\(\boldsymbol{B}\)の起点を合わせたときにできる三角形に余弦定理を使って計算すると同じものというのが証明できます。
(証明というほどたいそうなものではないのですが)

ここで使うのは、

  • \(\boldsymbol{A} \cdot \boldsymbol{B} = a_1b_1 + a_2b_2\)

のほうです。
つまり、「2つのベクトルの0番目同士かけたものと、1番目同士かけたものの和」、が内積という事ですね。

ありがたいことに、これ、4元ベクトルでも同じなんですね。
例えば、\(\boldsymbol{D} = (d_0, d_1, d_2, d_3), \boldsymbol{J} = (j_0, j_1, j_2, j_3)\)のとき
(なぜDとJかというと、意味はありません。EとかFとかGとかHなんかはいろいろと特別な意味を持ってくるのでやめたまでです。
まあ、DとかJも特別な意味がない事もないのですが、それを言っているとアルファベットが使えなくなるので・・・)
\(\boldsymbol{D} \cdot \boldsymbol{J} = d_0 j_0 + d_1 j_1 + d_2 j_2 + d_3 j_3\)
となります。

こういう目で
\(-dS^2 = (A^0)^2 – (A^1)^2 – (A^2)^2 – (A^3)^2\)
を見ると、実におしいです。
最初だけプラスであとはマイナスというのだと、全部マイナスなら、両辺にマイナス掛ければいいんですがね。
それでもま、何とか工夫してみた方法が次の通りです。

\(A^0 = A_0, -A^1 = A_1, -A^2 = A_2, -A^3 = A_3\)
というのを作るんです。
はい?、反変とか共変ですか?
まあ、実は、添え字が上のものを反変と呼び、添え字が下付きのものを共変と呼ぶんですが。
そんな呼び方はどうでもいいじゃないですか。
私のペンネームが「まんぼう」という程度の意味しかありませんので。


実は反変とか共変には、数学的にとっても深い意味があります。
しかしそれは私のペンネームが「まんぼう」であるという事の奥に、
・わたくし「まんぼう」は実は・・・を専門とする博士である
とか、
・「はしびろこう」とか「もーくん」という別人格でも活動している
とか、
・「まんぼう」と「はしびろこう」と「もーくん」は記憶その他を共有している
とかの、深い意味が存在している事と同じようなもの。
ここでは、呼び方とか、その奥の深い意味はあえて無視して進むのがいいでしょう。

とにかく、この下付きの物を設定してやると、
\(-dS^2 = (A^0)^2 – (A^1)^2 – (A^2)^2 – (A^3)^2 \\
= (A^0)(A_0) – (A^1)(-A_1) – (A^2)(-A_2) – (A^3)(-A_3) \\
= (A^0)(A_0) + (A^1)(A_1) + (A^2)(A_2) + (A^3)(A_3) \)
となります。

つまり、全部プラスになったという事は、例の「ベクトルの内積」が使えるわけで。
早速使ってみると
\(-dS^2 = (A^0)(A_0) + (A^1)(A_1) + (A^2)(A_2) + (A^3)(A_3) \\
= \boldsymbol{A}^{\mu} \cdot \boldsymbol{A}_{\mu}\)
となります。

さて、添え字の上付きと下付き、どんな関係でしょうか。

元々、添え字が上付きの\(A^{\mu}\)というのは、4元ベクトルの要素から来ていました。
という事は、添え字が下付きの物もベクトルと考えてもいいのでしょうか。
結論から言うと、
「下付きのものもベクトルと考えていいのですが、ちょっと性質が違うので注意が必要です。」
ということです。

ちょっと前に行った反変と共変の話なんですがね。
ここでも、やっぱり、流してしまいます。
でも「ちょっと注意が必要」という事だけは覚えておいてください。

ついでにもう一つ。
高校ぐらいで習う→が上につくタイプのベクトルは、反変ベクトルです。
つまり、添え字は上につきます。
ちなみに、上に→を付けているベクトルは、平面や空間で→で表せるものです。
逆に言うと、共変ベクトルは平面や空間で→で表せない、高校のころに習ったものとはちょっと違うベクトルになります。
さらにさらに、ここから先は「ベクトルってあれっしょ?矢印の奴っしょ?」という考えは捨てましょう。
今までに習っていたベクトルが、たまたま平面や空間で矢印で表せるものだったにすぎませんので。

あと、
\(A^0 = A_0, -A^1 = A_1, -A^2 = A_2, -A^3 = A_3\)
なので、これをベクトルと行列の形で表すと、
\(\left( \begin{array}{c} A_0\\A_1\\A_2\\A_3\\ \end{array}\right) =\begin{pmatrix}1 & 0 & 0 & 0 \\ 0 & -1 & 0 & 0 \\0 & 0 & -1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & -1 \end{pmatrix}\left( \begin{array}{c} A^0\\A^1\\A^2\\A^3\\ \end{array}\right) \)
となります。
この行列(0と1と-1でできてるやつ)を、「計量テンソル」といいます。
ああ、ご安心ください。最初に考えた人がこう呼んだので、こんな名前が付いただけです
ちなみに、計量テンソルが常にこの形になるわけではありません。
計量テンソルがこの形になるのは、「平らなミンコフスキー空間の直交座標系において」です。
(まあ、時間軸が他のx, y, z軸と直行というのがなかなかピンとこないと思いますが)

ここでも大胆に行動してみますと、
「ベクトルの添え字を上付きから下付きにするために、上付きベクトルに左から掛けるものを、計量テンソルと言います」
となります。

計量テンソルで上付きベクトルが下付きベクトルになるのがわかったところで。
下付きベクトルの左から計量テンソルをかけてみたらどうなるでしょう。
計算するとわかりますが、上付きベクトルになります。

つまり、計量テンソルを左から書けることで、上付きベクトルと下付きベクトルを行ったり来たりできるわけです。

所で、結局出てきたのは何か?→ベクトル\(A^{\mu}\)の大きさです。

結局のところ
\(-dS^2=\sum A^{\mu}A_{\mu}\)
で、左辺の\(dS^2\)とは何かというと、事象の間の距離の2乗でした。
ということは、Sは事象の間のベクトルだったことになります。
これと等しい右辺を見ていくと、こちらも反変と共変を掛けてはいますが、同じAについて言っています。
つまり、AはSと同じ意味だったという事ですね、Sが「事象の間の」とついていること以外は。
ということで、ちょっと大胆に
\(\boldsymbol{A}^{\mu}\boldsymbol{A}_{\mu}\)
というのは、「ベクトル\(A^{\mu}\)の大きさ(の2乗)」ということにします。

ちなみに、世界間隔dSは、ローレンツ変換で不変な量でした。
という事は、ベクトルの大きさというのは、ローレンツ変換で不変な量、ぶっちゃけると「ローレンツ変換しても変わらない量」という事になります。

何かおかしな感じがするのであれば、かなり大胆(=正確ではない)ですが、つまようじを考えてみてはいかがでしょう。
つまようじをテーブルに置くやり方は、向きが自由であれば、それこそ無数にあります。
ですが、つまようじの長さは、変わりません。
つまようじの置き方を変えるのがローレンツ変換で、それによってつまようじの長さは変わらない、という事です。

数学的には、もっともっと深い意味がありますし、物理的にももっと深い意味があります。
が、つまようじのたとえで腑に落ちるなら、その状態で先に進むのも一手です。
先に進んでから、もう一度考え直す方が良い時もある、と考えます。

この辺で、いったん一般相対性理論から離れて、テンソルその物を見るのもよいかもしれません。

ここまで、「一般相対性理論に必要な数学としてのテンソル」について話してきました。
しかしこの辺でいったん、一般相対性理論から離れて「テンソルその物」を考えるのもよいかもしれません。

というのも、このあたりから
・「空間」の意味が変わってきます。
・「次元」の別名に「基底数」というのが使われるようになり、「階数」というちょっと紛らわしい言葉も出てきます。
なにより
・3次元空間では考えられないような概念が出てきます。

例えば、「3つの直行するベクトルすべてに直行するベクトル」というものは、3次元空間では想像できません。
実はこれ、4次元空間でのことなんですけどね。
まあ、1個くらいならどうってこのない、なんて思うんでしょうけど。

これが、5つ、6つと「互いに他のベクトルと直行するベクトルの集まり」なんて話になってくると、お手上げになるわけです。
実はこの、「互いに他のベクトルと直行するベクトル」というのが「基底」の一種になります。
(一種と書いたのは、直行する必要はないからです。ちょっと難しい言葉を使うなら、「互いに独立しているベクトル」でも基底になります。)

ね?かなり一般相対性理論から離れてくるでしょう?
なので、どうせ離れるなら、それこそ思い切って離れる方がいいだろうという事なわけです。

どうせ離れるなら、微分も勉強しておきましょうか。

どうせテンソルのために一度相対性理論から離れるのであれば。
微分もこの機会に勉強しておくといいかもしれません。
特にあなたがいわゆる文系出身の方であれば。

といいますのも、日本の教育課程で微分は高校2年生で習います。
高校2年生という事は、文系理系に分かれた後になります。
つまり、文系の方は微分というものに触れたことがないかもしれないのですね。

何でもそうですが、最初からできる人はいないわけで。
それでもやってみれば、それほど難しくはないかもしれません。
ただ、教科書というやつはわかりにくくなっていることが多々あったりします。
実はwikipediaもその傾向があります。

なぜかという理由を考えたところで、何の解決にもなりませんが。
一応私なりに考え付いた理由を言ってみますと。
1. わかっている人たちに突っ込まれたくないくらいに、説明を完璧にしたい。
2. 説明の中で嘘を全くつきたくない。
という事かなと思います。

これら、「説明が完璧」とか「嘘が全くない」というのが悪いのか?というと、実は悪い事もあり得ます。
a. 説明が完璧である→抽象的になる。
b. 嘘が全くない→専門用語と抽象的な概念のてんこ盛りになる。
という傾向になりまして、「初めて学ぶ人にとって」この2つの状態は最悪の状態となります。

なので、もしお金があるのであれば、「マンガでわかる・・・」なんて本を買うのもおすすめです。
正確さとか、そういうのは、ある程度理解してから求めればいいのですから。
(ただし、今までの知識が間違っていたとわかったときに、素直に軌道修正ができるだけの柔軟さが必要ですけれど)
ただ、もっと手っ取り早く何とかしたいという方のために、物理数学の中で微分を説明しておこうと思います。