前回に詳しく説明した「運動エネルギー」と広い意味の「位置エネルギー」について復習しましょう。

運動エネルギーは「運動している物体が持っているエネルギー」。
広い意味での位置エネルギーは「位置によって物体が持っているエネルギー」。
でした。
運動エネルギーは「運動している物体に負の仕事をして停止させるまでの仕事の総量」から式が出てきました。
位置エネルギーは「物体に働く力に逆らってした仕事の総量」から式が出てきました。
※どの力に逆らったのかで、”〇〇力の”とい名前が付きました。
例えば重力に逆らって仕事をしたのであれば「重力による位置エネルギー」、ばねの弾性力に逆らって仕事をしたのであれば、「弾性力による位置エネルギー」となりました。

この「運動エネルギー」と「位置エネルギー」はちょっと特別だという事を前回の最後にちらっとお話ししました。
ということで、位置エネルギーがどのように特別かから話を始めましょう。

とりあえず、重力と弾性力による位置エネルギーの式を見ると、「最後の位置」だけしかありませんね。

重力による位置エネルギーの式:\(U_{g} = m \cdot g \cdot h\)
\(m\):物体の質量 \(g\):重力加速度 \(h\):(基準面からの)高さ
弾性力による位置エネルギーの式:\(U_{bd} =\frac{1}{2} k \cdot x^2\)
\(k\):ばね定数 \(x\):ばねの伸び・縮み

重力による位置エネルギーにおいて、質量は考えている物体について不変です。
また、弾性力による位置エネルギーにおいて、ばねの伸び・縮みは「ばねの先端の、自然長位置からの距離と言えます。
高さとか距離とかは「位置」と同じなので、結局どちらの位置エネルギーも「最後の位置」だけでエネルギーが決まる、と言えます。
そして、こういった「その力による仕事は、経路に関係せず最終の位置で決まる」という力を「保存力」と呼びます。
保存力は、ここで上げた重力・弾性力以外に、静電気力・万有引力があり、全てが何らかの「位置エネルギー」のもとになっています。

さて、この最後の位置だけで決まると言う事は、問題を解く時にとても有効でして。
ジェットコースターを考えると見えて来るとは思いますが。
途中で

  • どんなに曲がりくねろうが、
  • どんなにアップダウンしようが、
  • なんならひねりや回転をしようが、

とにかく最後の位置でその物体の持つ位置エネルギーが決まります。
さらに極端な場面を考えると、

どんなに動き回ろうと、最初の位置に戻った途端に位置エネルギーの変化量は0になる。

つまり、行って戻ってきたら、位置エネルギーに変化なしなんです。

こういう性質を持つ位置エネルギーは運動エネルギーと絡めて考えるとさらに強力な武器となります。
が、まずは運動エネルギーだけについて考えてみましょう。

運動エネルギーは、「その瞬間に物体が持つ速度」だけで決まり、「かかっている力と距離」によって変化する。

位置エネルギーの時と同じように、ある物体について注目する=物体は変わらない という時、質量\(m\)は一定です。
よって、運動エネルギー:\(E_{mv}\)の式
\(E_{mv} = \frac{1}{2}mv^2\)
の式を見てわかる通り、「物体が持つ速度」だけで決まります。
そして、その速度は「ある瞬間の速度」になります。

次の瞬間に速度が変わっているかどうかは、その物体に力が働いているかどうか、によって決まります。
ある力\(F\)が距離\(x\)かかっていれば、
仕事の式:\(W = Fx\)
に従って運動エネルギーは変わりますし、
運動方程式:\(m \alpha = F\)
の加速度がその間かかり続け、その速さ(ここでは向きは考えません)が\(v_0\)から\(v\)に変化します。
そうすると、
等加速度運動③の式:\(v^2 – v_0^2 = 2 \alpha x \Leftrightarrow v = \sqrt{v_0^2 + 2 \alpha x}\)
の速さになります。
速度の変化は運動エネルギーの変化と同じ事なので、「かかっている力と距離」によって運動エネルギーは変化します。
そして、この「かかっている力と距離」によって、運動エネルギーと位置エネルギーがつながって、ある超強力な武器が出来上がります。

力と距離がつなぐ、運動エネルギーと位置エネルギー。その関係で出てくるのは「力学的エネルギー保存則」

位置エネルギーは保存力が働く場所において「最終の位置」のみで決まるエネルギーで。
その大きさは「基準面から今の位置まで、かかっている保存力に逆らって物体を移動させるのにかかった仕事の大きさ」になります。
そして、その位置をキープするために、その物体にかかっている保存力に対抗する別の力を掛けています。

さて、この対抗する別の力をなくすとどうなるか?
そうですね、物体はかかっている保存力によって基準面に向かって移動します。
位置が変わるので、物体の持つ位置エネルギーが変化します。
(基準面までの距離が減るので、この場合位置エネルギーは減少します。)

保存力の大きさは基準面からの距離(=位置)に関係するので、力が刻々と変わりながら位置が変化します。
※重力については、位置に無関係な力になりますが、ここでは無理やり「無関係という関係がある」と考えます。
当然力を受けるので加速度が生じ、それにより速度が変化します。
何も障害物がなければ、動く方向は基準面に向かってなので、向きは省略して大きさだけ考えることができます。
さらに別の視点で見ると、物体は瞬間瞬間でこの仕事を受けながら移動します。
仕事を受けた分、物体の運動エネルギーが増加します。
つまり、力を受け、速度(速さ)が増加し、運動エネルギーが増加するんですね。

ここで、減った位置エネルギーと増えた運動エネルギーを見てみましょう。
・減った位置エネルギー:移動した距離とその間の力(の変化)による。
・増えた運動エネルギー:移動した距離とその間の力(の変化)による。
どうですか?見事に言葉として一致しますね。
つまり、
位置エネルギーが減った分、運動エネルギーが増えた
と言えるわけです。

もし、ある速さで基準面から遠ざかるように物体が動いていたとしたら?
諸々は省略しますが、
減った運動エネルギーの分だけ、位置エネルギーが増えた
となります。
(物体にかかる保存力による「負の仕事」を使うとうまくいきます)

保存力だけが働く限り、運動エネルギーと位置エネルギーの間で、エネルギーは行ったり来たりするだけで、合計は変わらないのです。
これが「力学的エネルギーの保存則が成立している状態」です。

力学的エネルギーの保存則が成立しない=保存力以外が働いている=エネルギーの量が最後の位置だけでは計算できない ということです。

力学的エネルギーが保存しないときはどうでしょう。
というか、力学的エネルギーは保存されていないことの方が多いです。
地球上では。

というのも、保存力以外が働く場合、力学的エネルギーの保存則は成立しませんが。
地球上の物体を考える限り、空気や水の抵抗・(床との)摩擦力というものが必ずと言っていいほど働くからです。
では、これらの保存力でない力(非保存力)が働くとどうなるのか。

摩擦熱が働くと、皆さん経験があると思いますが、摩擦熱がでます。
熱エネルギーが発生したんですね。
空気抵抗なら空気との摩擦力以外に空気を圧縮する力が発生します。
圧縮する力は弾性エネルギーと考得られる部分は保存力ですが、摩擦力の方はやっぱり摩擦熱を生み出します。

とりあえず摩擦熱を考えます。
摩擦熱は
・途中でどのくらいの距離を動いたか
が必要なものです。
もっと言うと、
・最初の位置から移動して、最終的に元に戻ってきてもなくならないもの
です。
(むしろどんどん増えますね)
そもそも、摩擦熱といったときには、もはや力学的エネルギーではありません。
熱エネルギーという別の形態になります。

あと、空気を圧縮する力については、エネルギーが空気の振動というものに変換されていく部分が出てきます。
空気の振動、すなわち音ですね。
そして、この音のもとになったエネルギーは、周囲に拡散していきます。
物体から離れている私の耳が音を聞いた=音のエネルギーの一部が拡散し、物体から離れている私の耳に到達した という事ですから。
で、拡散された音のエネルギーは、ほぼ間違いなく、元の物体に戻ってきません。
(戻ってきたとしても、やまびこのように、ほんの一部が返ってくるだけですね)

このように、非保存力が働くと、エネルギーの一部(または全部)が位置エネルギー・運動エネルギー以外の物になるので、力学的エネルギーは保存されなくなります。

ただ、もっと後になると「ある系のエネルギーの総量は保存される」というエネルギー保存則が出てきます。
まあ、それはまたその時に話題にしましょう。

ところで、力学的エネルギー保存則が成立する時、これを使うと便利なのはどういう場合か?それは、力と距離が関係する=仕事が関係する という場合です。

あくまで「力学的エネルギー保存則が成立する時」という制限付きで話を進めます。
エネルギーは仕事と密接な関係があります。
仕事は、力 \(\times\) 距離 です。
つまり、エネルギー保存則を使って考えると良いのは、「力と距離=仕事 が関係した場面」です。

分かりやすい例が、すでに出てきているジェットコースターですね。
もちろん、ジェットコースターには摩擦だの空気抵抗だのありますが。
ある程度無視できるようになっているとした場合に。
最初引き上げられて、ある所で落下(といってもレール上ですが)し始めてからの話です。
ジェットコースターのスピードは落下地点から低いところほど速く、落下地点い近づくと遅くなります。
それを繰り返しながらコースを動いていくわけですね。

次がばね振り子。
摩擦が非常に小さな床におもりを置いて。
そこに水平方向にばねを付け。
ばねのもう一方を床から垂直方向に立っている壁(特に垂直でなくてもいいんですが)につけ。
おもりを押すか引くかしてから離すと、おもりは水平方向に振動するんですね。
これがばね振り子。
話す直前におもりが持っている弾性力による位置エネルギーが、おもりを離したところから段々運動エネルギーに変わり。
ばねの自然長のところで位置エネルギー0、運動エネルギー最大となります。
その後おもりは、先ほどと反対方向に進んで、またばねの自然長(位置エネルギー0、運動エネルギー最大)の所を過ぎて、最初の位置に戻ります。
これを繰り返すんですね。

次が普通の振り子。
先ほどのばね振り子で、「弾性力による位置エネルギー」と言っていたところが「重力による位置エネルギー」に変わります。
振り子の糸がたるまないようにおもりを上げていき、離したところからの話ですね。

これらは全て、

  1. 最初に持っている位置エネルギーを計算。
  2. ある地点の位置とそこでの位置エネルギーを計算。
  3. 最初の位置エネルギーからその地点の位置エネルギーを引き算。
  4. 差分が運動エネルギーなので、そこから速度を計算。

というパターンで解くことになります。
色々な運動を途中で挟むとしても、基本の流れは変わらないものです。

次の回は「力学的エネルギー保存則」が使えない場面で活躍する、力積と運動量を習います。

力学的エネルギー保存則を使うのが、力と距離の関係する場面ですが。
力と時間が関係する場面では力学的エネルギー保存則は使えません。
というか、エネルギーは仕事、つまり力と距離に関係するので、力と時間が関係する場面ではエネルギーで事象を追う事が出来いか、できても非常に複雑になります。

という事で力と時間が関係する場面で活躍するのが何かというと、力積と運動量というものです。
力積は 力 \(\times\) 時間で、運動量は 力 \(\times\) 速さ です。
ちなみに、この2つは考えている事象の中にある物体が、少なくとも1つ動いているという事を想定しています。
(すべてが止まっている場合、力積も運動量も0になりますので)
さらに、少なくとも2つの物体でできた「系」というものを考えることになります。

そんな2つの量について次回、詳しく見ていきましょう。

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