運動量保存則 すんなり受け入れられたでしょうか?私は結構長い間モヤモヤしていました。それこそ、10年単位で・・・

皆さん、運動量保存則はいかがでしたでしょうか?
すんなり受け入れて当たり前のように使える方もいらっしゃるでしょうし。
「こんなもの、問題を解ければいいだけだ!」という事で公式を丸暗記してガシガシ問題を解きまくっている方もいらっしゃるでしょう。

ただ、私の様に疑り深い方の中には
「え~っ。ほんとに運動量って保存するの~??」
って思われた方もいらっしゃるでしょう。
なにせ、運動エネルギーを途中で失っても運動量は保存されるんです。
「外力」が働かなければ。

実は、前の項を書き上げる直前まで、このモヤモヤが続いてたんですよ、私は。
だって、おかしいでしょ?
「失ったものがあるのに、保存されている」
「しかも形が良く似ている」
ね?

でも、ようやく気付いたんです。そのモヤモヤの根本原因に。
それは、「運動量保存則は複数の物体からなる物体系で使われる」という事をすっぽかす癖がついていたから。
この辺含めて、私が感じたモヤモヤの数々に、私自身が引導を渡していこうと思います。

衝突前の速さの合計より衝突後の速さの合計が小さいことがある。>運動量保存則は速さではなく速度で考える。

これは、運動量は”系内の合計”で考える事、”ベクトル”で考える事、が抜けたために起こったモヤモヤだと思います。
分かっちゃいるんですけど、やめられない。ああ、やめられない・・・。
ということで、さっそくこのモヤモヤに引導を渡していきましょう。

簡単な状況として、数直線上を右に\(10\)の速さで動く質量\(2\)の物体\(A\)と、同じく左に速さ\(5\)で動く質量\(3\)の物体\(B\)があって、この2物体の系を考えるとします。
一般に数直線は左に行くほど大きくなるので、プラスマイナスだけをつけて速度して2物体の速度を見ています。
すると物体\(A\)の速度は\(10\)、物体\(B\)の速度は\(-5\)になります。
よってこの系の運動量は <物体\(A\)の持つ運動量> + <物体\(B\)の持つ運動量> なので、
\(2 \cdot 10 + 3 \cdot (-5) = 20 – 15 = 5\)
となります。

ここで反発係数\(0\)と考えると、 物体\(A\), \(B\)は一体となって動くので、その速度を\(v\)とすると
\((2 + 3) \cdot v = 5 \Leftrightarrow v = 1\)
つまり、融合した物体\(A\), \(B\)は数直線の右に向かって速さ\(1\)で動くわけですね。
衝突前の”速さ”(つまりプラスマイナスを考えない)の合計は\(15\)で衝突後は\(1\)ですから、一見激減しているように感じます。
でも、運動量を考えるときは速度(つまりプラスとマイナスを考える)なので、そもそもこんなこと考えちゃいけないんですよ。
(もちろん、反発係数に関係なく保存則は成立します。計算が簡単なので反発係数を0にしただけです)

もう一つ、物体\(A\)と物体\(B\)を個別に考えて、「それぞれの進む方向を正として運動量を出す」と次のようになります。
物体A:\(2 \times 10 = 20\)
物体B:\(3 \times 5 = 15\)
もちろん、この2物体を1つの系で扱う場合、上記の様に物体\(B\)の運動量はマイナスになります。
これを忘れてそのまま足すと、\(20 + 15 =35\)ととても大きな数字になるんです。
案外ちょっと気を抜くとこっち側で考えがちなんじゃあないですかねぇ?
といことで、私がモヤモヤしてしまったのは、ここが原因でした。
原因がわかれば対策もわかる。
幽霊と思ったものがススキの枯れたもの(枯れ尾花)とわかってしまえば、何のことはないんです。

結論:運動量は速さではなく速度(つまり方向付き)で考える事。そうすると衝突前の運動量の合計が思っていた(符号を無視して考えていた)ものより小さいことが多い。

物体が動いているのに、運動量が0になる事があるのか?個別の運動量であればこれはあり得ないが、系としての運動量なら普通にある。

これも、運動量の性質というか、運動量を考える場面をすっかり置いてけぼりにしたためにおこったモヤモヤですね。
運動量は物体単体ではなくて、「物体系」=複数の物体をまとめたもの で考えるということを理解していなかったためのものです。
でもね、直前に力学的エネルギーをやってるので、仕方ないなぁとも感じますけどね。
(と自己弁護しておきます。)
では、このモヤモヤにも引導を渡していきましょう。

これに関しては、単純です。
物体Aと物体Bが数直線上を動いているとするのは前のパターンと同じです。
物体Aの質量が\(3\) \(kg\)で速さが\(5\) \(m/s\)向きは左から右。
物体Bの質量が\(5\) \(kg\)で速さが\(3\) \(m/s\)向きは右から左。
とします。
(今回、敢えて単位を書きました。理由は・・・なんとなくです)
この系において、左から右の向きを正、右から左の向きを負とします。
物体\(A\)の運動量は
\(3 (kg) \cdot 5(m/s) = 15(kg \cdot m/s)\)
物体\(B\)の運動量は
\(5 (kg) \cdot (-3)(m/s) = -15(kg \cdot m/s)\)
よって、その合計は
\(15(kg \cdot m/s) – 15(kg \cdot m/s) = 0(kg \cdot m/s)\)
になります。
ね?物体が2つとも動いているのに、系としては運動量が0という状態なんです。

さらに、衝突後についても面白いことが言えます。
衝突後の、物体\(A\)の速度を\(a\) \((m/s)\)、物体\(B\)の速度を\(b\) \((m/s)\)とします。
完全弾性衝突(\(e = 1\)であれば、\(\frac{a – b}{5-3} = 1 \Leftrightarrow a – b = 2\)・・・①
です。
一方で衝突後の速度の比は、質量比の逆比ですから\(a : b = 5 : 3\)ですね。
よって、\(a = \frac{5}{3}b, b = \frac{3}{5} a\)
これらを①に代入して
\(a – b = a – \frac{3}{5} a = \frac{2}{5} a =2 \Leftrightarrow a =5 (m/s)\) 向きは右から左。
\(a – b = \frac{5}{3}b -b = \frac{2}{3} b = 2 \Leftrightarrow b = 3(m/s)\)向きは左から右。
となります。

反発係数が\(\frac{1}{2}\)であれば、\(\frac{a – b}{5-3} = \frac{1}{2} \Leftrightarrow a – b = 1\)・・・②
です。
一方で衝突後の速度の比は、質量比の逆比ですから\(a : b = 5 : 3\)で変わりません。
よって、\(a = \frac{5}{3}b, b = \frac{3}{5} a\)
これらを②に代入して
\(a – b = a – \frac{3}{5} a = \frac{2}{5} a =1 \Leftrightarrow a =\frac{5}{2} (m/s)\) 向きは右から左。
\(a – b = \frac{5}{3}b -b = \frac{2}{3} b = 1 \Leftrightarrow b = \frac{3}{2}(m/s)\)向きは左から右。
となります。

そして、完全非弾性衝突\((e = 0)\)の場合は、
\(\frac{a – b}{5-3} = 0 \Leftrightarrow a – b = 0\)・・・③
つまり、\(a=b\)です。
ここでは逆比を使わずに運動量そのままを使います。
衝突前に系の運動量が0です。衝突後も系の運動量は0です。物体\(A, B\)の速度は同じです。
こうなると、物体\(A, B\)共速度\(0\)しかありえません。
(衝突後の運動量の式から \(3a + 5a = 8a = 0 \Leftrightarrow a=0\))
つまり、衝突して、くっついて、止まる、という動きをします。

結論:単体では運動量を持っていても、複数の物体をまとめて考えた時、その和が0になることは多々ある。そして、運動量保存則は 物体系=複数の物体をまとめて考えたもの に適用される。

私が感じていた最大のモヤモヤ「力学的エネルギーが保存されないのに運動量が保存されるのはなぜか」>力学的エネルギーと運動量は性質が違う。

このモヤモヤが一番大きかったですね。
力学的エネルギーが保存されない場合でも運動量保存則は使えるという。
でも、2つは考えているもの、いわば「守備範囲」が違うんですね。

物体Aが物体Bに衝突する時を考えます。

  • 力学的エネルギー保存を考えるとしたら、物体Aか物体Bのどちらかについてだけです。
    (両方考えるとしても、別個に考えます)
  • 運動量保存則を考えるのは、物体Aと物体Bを合わせた物体系全体です。
    (逆に別個に考えることはありません)
  • 力学的エネルギーは、物体\(A, B\)の間での力学的エネルギーのやり取り以外に、周囲の空気や床などへの熱エネルギーは圧縮に関するエネルギー等複数ある。→逆にこれら全てを含んで「エネルギー」と考えると、「エネルギー保存則」として成立する。
  • 系の中で運動量を持つのは物体Aと物体Bだけで、この2つの間でやり取りされるのみ。(空気の粒とかは、とりあえず考えない)

なんとなくわかってきたでしょうか。

  • 個々の物体を見るのであれば力学的エネルギー保存則
  • 複数の物体を系としてまとめてみるなら運動量保存則
  • エネルギーには力学的エネルギー以外の形態があり、そういったすべてのエネルギーをひっくるめて考えるなら「エネルギー保存則」が成立する。
  • 運動量ほかの形態がなく、物体系内の物体にのみ運動量が存在する。よって注目する物体系の運動量は外力が働くことによってのみ変化する。反対に外力が働かない限り運動量は変化しない=保存する。

という感じですね。

そうなんです、守備範囲が違うんですよ。
でもね、かぶっているところがないわけではなくて

モヤモヤに引導を渡せたところで、力学的エネルギー保存則と運動量保存則の守備範囲がオーバーラップしているところをちょっと考えましょう。

とはいえ、両者の守備範囲でオーバーラップしているところもあります。
この場合、両方を使って連立させて解くという事で、一般的にちょっと高度な問題といわれます。

その特徴ですが、

  • 運動量保存則を使うので、複数の物体を系としてまとめて扱うのですが。
  • 運動量保存則を使うがゆえに、系の外とのやり取りはないはずです。
    (外力が働かない)
  • 力学的エネルギー保存則が使えるがゆえに、個々の物体に注目することもするのですが。
  • 働く力は保存力でエネルギーは運動エネルギーと位置エネルギ(重力や弾性力などによる位置エネルギー)だけで完結しているはずです。

よく見ると、かなり縛りがきついものになっているわけですね。
縛りがきつい相手は、対処法さえ間違えなければ扱いやすくなるものです。
正解へのルートが狭い分、ちゃんとたどることができれば道をそれる心配がないともいえるんですね。

次回は今更ですが重心について勉強していきます。

重心はいくつかに分けたすべての部分の重心の重心・・・
以前はそんな風にごまかしつつ押し進んできたと思います。
第7回の”力のモーメント”のところでそんなことを言っています。)
※このリンクはクリックすると別ウインドウで開きます
でも、そろそろしっかり重心と向き合うときが来たような気がします。

ということで、次回は真正面から重心と向き合っていこうと思っています。

前の記事:力学について 13 ~運動量保存則~ 

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