私たちが普通に考えられるベクトルは縦ベクトルです。

このあたり、平面ベクトルの変換の所でも言いました。
私たちが、平面とか3次元空間で、矢印を使って考えることのできる、普通のベクトルは、全て縦書きです。
これは、次元が大きくなって4次元とか10次元とか11次元とかになっても、矢印で書けると感じることのできるものは、縦書きなのです。

実は、矢印では書けないベクトルというのがこの世の中には存在していまして。
それが横書きのベクトルになります。
は?どういう事ってなりますよね。
では、ここで、かなり間違ってしまう危険を冒しつつ、縦書きと横書きを説明してみます。

まず、ベクトルの復習をしましょう。
物理数学の平面ベクトルで紹介したように、ベクトルは
・複数の要素をまとめて扱っている。
・10個のルールに従っている。
の両方を満たしている必要があります。
(ただし「複数の」、の中には「1個」も含むことがあります。
スカラーもベクトルっぽく扱う事がある、という事です。普通は区別しますが)
逆に言うと、これを満たしていれば、”矢印でイメージできなくても”ベクトルになるわけですね。

さて縦書きのベクトル、つまりここでいう縦ベクトルは、矢印で表せるので、
・スタートを決めればゴールが決まる。
・長さが決まる。
という特徴があります。

という事は、つまり、矢印で表せない横書きのベクトル=横ベクトルは
・スタートとかゴールとかが考えられない。
・長さを考えられない。
という事です。
ここでいう”考えられない”と言うのは、”それっぽい何かを当てはめられない”とでも言いましょうか。
縦ベクトルには、要素から長さを出す公式(というより定義式)があります。
横ベクトルに同じ式を当てはめれば、計算はできますし答えも出ます。
しかし、その答えが”長さ”という意味を持っていないのです。

話が長くなりますが、NHKスペシャルの「アインシュタイン・ロマン」中で、ミヒャエル・エンデさんが、たしかこんな話をしていました。
「1 ㎢の赤は、1㎡の赤より赤いですか?」
「100万人の悲しみは、1人の悲しみより悲しいですか」
まさに、これが横ベクトルの長さを考えられない状態を示しています。
面積や人数は大小を比較できます。
しかし、このやり方を「赤さ」という別の基準に当てはめると、もうそれは意味をなさないわけです。
妻には、「あなたのたとえ話はわからなさすぎる」とよくダメ出し食らっているので、多分この例えはあまりよくないのだろうと思いますが。
もし、あなたの理解の一助になれば幸いです。

とにかく、
・普通に矢印で考えられるベクトルは縦
・矢印で考えられないベクトルは横
と思っておいてください。

線形汎関数というものは、縦ベクトルの各要素に何かを掛けて足すというやり方です。

前の項で話しましたが、
・線形汎関数とは、ベクトルを数にする変換のやり方
です。

そうそう、関数って言うのは中学1年生で習う言葉ですね。
復習しておきますと、
・あるものを、決まった方法でコネコネ(コネコネは、そう前に出てきた変換のことですね)して、別のものを出すやり方
です。
しかも、「別の物」といいながら、結局「前と同じ物」でも可です。
どうですか?ますます線形汎関数というのが身近になりませんか?

なにはともあれ、今は線形汎関数です。
線形汎関数が変換(はい、つまりコネコネですね)するのは、「私たちが想像しやすい、矢印で表せるベクトル」なので、縦ベクトルです。
で、n次元のベクトルであれば、n個の要素を持っています。
さて、このベクトルから比較的簡単な数の作り方は何でしょう?
色々なパターンがあるとは思いますが、「何か一つの要素を取り出す」なんかはどうでしょうか。

これである程度納得してもらったのなら、次はもう少し複雑だけどそこそこ簡単な数の作り方は何でしょう?
これも色々なパターンがあるとは思いますが、「すべての要素を足す」というのではどうでしょうか。

これも、しぶしぶで結構ですので納得してもらったとして、さらにもう少し複雑ですがそれなりに簡単な数の作り方は何でしょう?
当然これも色々なパターンがあると思いますが、「すべての要素を定数倍して足す」ではいかがですか?

ここまでくると、いやいやながらの納得かもしれませんが、とりあえず納得してもらったとして、さらに複雑ですがそこそこ簡単な数の作り方は何でしょう?
当たり前ながら、これも色々なパターンがあると思いますが、「さっきのやり方で、すべての要素の倍率を変えて足す」というのはダメですかね?

実は、最後のパターンこそが、「線形汎関数」のやっていることです。
式にするとこんな感じです。
ちなみに、n次元のベクトル\(\boldsymbol{x}\)の線形汎関数を考えています。
\(\boldsymbol{x} = (x_0, x_1, \cdot \cdot \cdot, x_{n-2}, x_{n-1})\)の時
\(f(\boldsymbol{x}) = \alpha _0 x_0 + \alpha _1 x_1 + \cdot \cdot \cdot + \alpha _{n-2} x_{n-2} + \alpha _{n-1} x_{n-1}\)

ここで、倍率だけ抜き出してみましょう、
\(\alpha _0, \alpha _1, \cdot \cdot \cdot, \alpha _{n-2}, \alpha _{n-1} \)
n個の数が出てきました。
これをまとめてベクトルとして扱うとすると、やっぱりn次元のベクトルになります。
これをn次元のベクトル\(\boldsymbol{A}\)としてやります。

もしかして、これを使えば、ベクトルの掛け算で何とかなるんじゃ?
と思ったあなた。惜しいです。
このままでは掛け算できないのです。
そこには、行列とベクトルの掛け算の規則が立ちはだかるのです。

行列の掛け算は、「左側の行列の列数」と「右側の行列の行数」が同じでないといけない。

このあたりも平面ベクトルの変換のところで触れました。
ちょっと復習すると、列数とは横に並んでいる個数、行数とは縦に並んでいる個数です。
そして、行列の掛け算の性質として、
・左側の列数と、右側の行数が等しくないと掛け算できない。
・掛け算できる場合の答えは、左側の行数と右側の列数を持つ行列なる
です。
ちなみに、1行1列の行列はスカラー、ここでいう「数」になります。

で、n次元の普通のベクトル、つまりn次元縦ベクトルは、n行1列の行列と言えます。
このベクトルに掛け算できるのは、左からならn列のもの、右からなら1行の物しかありえません。
そして、右から1行〇列の行列を掛けると、答えはn行〇列の行列となり、どう頑張っても「数」にはなってくれません。
左側から〇行n列の行列を掛けた場合、答えは〇行1列の行列になります。
ここで左から書けるのが1行n列だった(つまり上の例で〇が1だった)場合、答えは1行1列で、「数」になります。

さて話を戻します。
n次元の縦ベクトルに掛け算して答えを「数」(1行1列の行列)にするためには、
・左から1行n列の行列を掛け算すればよい。
という事になります。

ここで1行n列の行列を見ると、横ベクトルの形になっているではないですか!
しかも、横ベクトル × 縦ベクトル の計算結果は、両方のベクトルの要素を掛け算して足し合わせる、つまり線形汎関数の形そのものです。
\(f(\boldsymbol{x}) = \alpha _0 x_0 + \alpha _1 x_1 + \cdot \cdot \cdot + \alpha _{n-2} x_{n-2} + \alpha _{n-1} x_{n-1}\)
上のn次元ベクトル\(\boldsymbol{A}\)を横ベクトルとしたときの形ですね。
よって、
\(= (\alpha _0, \alpha _1, \cdot \cdot \cdot, \alpha _{n-2}, \alpha_{n-1})  \left(\begin{array}{c} x_0\\x_1 \\\vdots \\x_{n-2}\\x_{n-1}\end{array}\right)\)
と書けます。
ただ、この縦ベクトルとか横ベクトルは書くのが面倒ですよね。

そこで、
\(\boldsymbol{X}^n = \left(\begin{array}{c} x_0\\x_1\\\vdots \\x_{n-2}\\x_{n-1}\end{array}\right) \)
\(\boldsymbol{A}_n = (\alpha _0, \alpha _1, \cdot \cdot \cdot, \alpha _{n-2}, \alpha_{n-1}) \)
と書くことにしました。
つまり、縦ベクトルは添え字を上に、横ベクトルは添え字を下に書くわけです。

さらに、これらのベクトルには名前を付けることにしました。
私たちが普通に矢印で考えることのできる縦ベクトル、つまり添え字が上に来るものを「反変ベクトル」。
反変ベクトルの線形汎関数を考えているときに出てきた横ベクトル、つまり添え字が下に来るものを「共変ベクトル」。
といいます。
なぜ「反」とか「共」なのかは、数学的にとっても意味はありますが、そこを追求すると大変なのでここではやめておきます。
ただ単に、名前だと考えましょう。

さて、行列の掛け算の話がなぜか「反変ベクトル」「共変ベクトル」にまで発展して、一石三鳥状態ですが。
今日も長くなったので、この辺で切り上げます。