ベクトルというのは、”いくつかの量をまとめて扱うもの”。でもそれだけじゃない。

ここでは、数学や物理でいう「ベクトル」を説明します。
一般の世界では、ちょっと違う意味で使うこともありますのでね。

さて、簡単にベクトルを説明すると、
”いくつかの量をまとめて扱うもの”です。
でも、ほんとはそれだけじゃベクトルって言えないんですがね。

その辺を説明するためにも、まず”平面ベクトル”を考えましょう。

平面ベクトルを考えるために、正方形の紙に置いた正円の石の位置について考えます。

正方形の紙の上に正円の石を置いたとします。
その状態を、電話で(テレビ電話はダメですよ)離れたところにいる人に伝えるとします。
紙の大きさと、置いた石の形以外のいろいろ(色・大きさなどなど)は、同じものを用意したとします。
そのうえで、あとは、紙と石の関係だけ伝えればいい。
さて、どうしたらいいでしょう?

色々なやり方があると思いますが、私ならこんな方法をとるだろうというのをお話しします。

・まず、定規(cmで長さが出ているもの)を用意します。
・正方形の紙のどこか1辺が真横になるように座ります。
・おいてある石の中心から、手前の紙の端まで垂線を下ろします。
※”ある点から、ある直線に垂線を下ろす”というのは、ある点を通ってある直線に垂直な線を引き、ある直線との交点を出すことです。交点の事を”垂線の足”と呼びます。
・その垂線の足から、左-手前の角までの長さを定規で測ります。(これが\(a\) cmだったとします)
・次に医師の垂線から、左の紙の端まで、垂線を下ろして、垂線の足を出します。
・その垂線の足から、左-手前の角までの長さを定規で測ります。(これが\(b\) cmだったとします)
・電話で、「紙のどれかの端が真横に見えるように座って、左-手前の角から右に\(a\) cm、上に\(b\) cmの所が円の中心になるように、石を置いてください」と伝えます。

どうでしょう?なんとなく、うまくいきそうな気がしませんか?

この\(x\)と\(y\)を座標と呼んで\((x, y) = (a, b)\)と表します。

この時の紙を平面とします。
紙の、手前の端を\(x\)軸、左の端を\(y\)軸と呼び、\((x, y)\)で表します。
これにより、紙の平面は\(xy\)平面と呼ぶことになります。
そして、このxが先でyが後という順番が大事になります。(ほかの人と議論するためには)

さらに紙の左-手前の角を原点 \(O\)と呼んで、\( O = (0, 0)\)と書きます。
石の位置(前の\(a\) cm、\(b\) cm)を\((x, y) = (a, b)\)単位:cm と表します。
ここまでは、上の例でのやりかたですね。

ここからは数学においての一般的なxy平面
数学においては、単位はいらないことになっています。
(というか、何でもよいということになっています。)
あと、負の数というものが普通に考えられるので、原点は紙の真ん中に取ります。
というか、平面は紙の様な有限なものではなく、無限に広がっていると考えます。
(紙、いらなくなりますね)

こうしてできた\(xy\)平面に、いよいよベクトルが登場します。

まず、位置ベクトルについて。

\(xy\)平面上に点\(A (a, b)\)があるとします。
この\(a, b\)を要素とした、ベクトルを、\(A\)の位置ベクトルといいます。
\(xy\)平面上では、原点\(O\)から点\(A\)に矢印を書いて示します。
あと、\(\overrightarrow{OA} = (a, b)\)の様にも表します。
点\(A\)の座標と点\(A\)の位置ベクトル\(\overrightarrow{OA}\)は、同じ形で書けるという事です。

こうして一つ目のベクトルが出たところで、ベクトルの持つ性質を見ていきます。

まず、スカラーという言葉について。

スカラーという見慣れない言葉が頻繁に出てきます。
でも安心してください、スカラーは、”今までの数の事”のことですから。
なぜこんな言葉が出たかというと、あとからベクトルというのが出てきたからでしょうね。

あまりたとえ話は得意じゃないのですが。
「起動戦士ガンダム」というアニメがあります。
今では、最初に放映された「機動戦士ガンダム」を「ファースト・ガンダム」と呼んだりします。
これは、あとから「機動戦士Ζガンダム」などが出てきたので、それと区別するために”ファースト”という言葉を付けたわけです。
スカラーというのもそれと似たようなものだと思います。
今まで特に名前も付けずに扱っていたのに、ベクトルというものが後から出てきたので、区別するために名前を付けた、という事でしょう。

ベクトルのスカラー倍について。

スカラーが”今までの数”ですから、スカラー倍は今までの”ナントカ倍”といっしょになります。
速い話が、”3倍”とか”4倍”とかのあれです。(3とか4がスカラーですね)

さて、平面ベクトル\(\overrightarrow{k} = (x , y)\)のスカラー\(\alpha\)倍は、次の様に表されます。
\(\alpha\overrightarrow{k} = (\alpha x, \alpha y)\)
ちなみに、なぜベクトルの名前を\(k\)としたかというと、他のアルファベットはいろいろなところで特別な意味で使われているからです。
(kもばね定数とかで使われるのですが)

このスカラー倍を、先ほどの点\(A = (a, b)\)の位置ベクトル\(\overrightarrow{OA}\)で見てみます。
\(\alpha \overrightarrow{OA} = (\alpha a, \alpha b)\)
です。
このベクトルの終点は、Oからの向きは変わらずに距離だけ\(\alpha\)倍になったものですね。
とりあえず、平面ベクトルについてのスカラー倍はこういうものと思ってください。
(実は空間ベクトル=3次元ベクトルでも同じことが言えます)

ベクトルの要素(これは今のところスカラーです)に使われる添え字について。

ベクトルの要素について、”今のところ”スカラーです、といったのは。
そのうち、スカラーじゃないものが入ってくる(かもしれない)からです。
でも今はそんなことは考えなくてもいいので、しばらく忘れててください。
また、ベクトルの要素にスカラー以外のものが入るようになったときに、頭の中の情報を更新しましょう。

さて、次に添え字についてですが、\(x_1\)とか\(y_2\)とかの1や2の事です。
なぜそんなものを使かというと、ここから使用する文字がどんどん増えていくからです。

ただ、ここではスカラーにつける添え字だけ考えます。
ベクトルにも添え字を使えるのですが、ちょっと特別な意味を持ちますので、まだ考えません。

添え字付きの文字について注意してほしいのは、
”\(x_1\)と\(x_2\)はほとんど別物”
という事です。
さらに
”\(x_1\)と\(x_2\)の関係と、\(y_1\)と\(y_2\)の関係には、規則性がない”
という事です。
\(x_{添え字}\)同士、\(y_{添え字}\)同士の共通点は、”ベクトルの中で何番目の要素かが同じ”位の意味で使います、ここでは。

ここまでの準備をしたうえで、ベクトルの和(足し算)を見ていきましょう。

ベクトルの和(足し算)について。

最初に念のため確認しますが。
”引き算は負の数の足し算”です。
なので、ここから先は引き算も足し算の一部として考えます。

それでは、お待ちかねのベクトルの足し算です。
2つのベクトル \(\overrightarrow{k} = (x_1, y_1)\) と \(\overrightarrow{n} = (x_2, y_2)\) の和は以下の様になります。
\(\overrightarrow{k} + \overrightarrow{n} = (x_1 + x_2, y_1 + y_2)\)

これを点\(A = (\alpha_1, \beta_1)\)と点\(B = (\alpha_2, \beta_2)\)の位置ベクトル\(\overrightarrow{OA}\)と\(\overrightarrow{OB}\)の和で考えると、
\(\overrightarrow{OA} + \overrightarrow{OB} = \overrightarrow{OC}\)・・・(1)
の点\(C\)は、\(OA\)と\(OB\)を2辺とする平行四辺形のもう一つの点になります。

ベクトルといえども等式の性質は変わらないので、両辺から同じベクトルを引き算したり、両辺を入れ替えても等式は成り立ちます。
そこで、(1)式の両辺から\(\overrightarrow{OB}\)を引き算して両辺を入れ替えると
\(\overrightarrow{OA} = \overrightarrow{OC} – \overrightarrow{OB}\)

四角形\(OACB\)は平行四辺形ですから、辺\(OA\)と辺\(BC\)は傾きが同じ(つまり平行で向きが同じ)で長さも同じです。
よって、
\(\overrightarrow{OA} = \overrightarrow{BC} = \overrightarrow{OC} – \overrightarrow{OB}\)
となります。
これにより、2点の位置ベクトルから2点間のベクトル、つまり位置ベクトル以外のベクトルができました。

平行で長さが同じなベクトルは全て等しい、ということ。

前のところで、「平行向きが同じで長さが等しいベクトルは等しい。」という事を書きました。
もう少し詳しくこのあたりを見てみましょう。
上の例で4点\(O, A, C, B\)については、その成分は以下の様になっています。
\(O = (0, 0)\)
\(A = (x_1, y_1)\)
\(B = (x_2, y_2)\)
\(C = (x_1 + x_2, y_1 + y_2)

ここで線分\(BC\)について、\(x\)成分と\(y\)成分をそれぞれ考えてみると、
\(x\)成分:\((x_1 + x_2) – x_2 = x_1\)
\(y\)成分:\((y_1 + y_2) – y_2 = y_1\)
よって、
\(\overrightarrow{BC} = (x_1, y_1) \)
もちろん
\(\overrightarrow{OA} = (x_1, y_1) \)
要素が全く同じ2つのベクトル\(\overrightarrow{BC}\)と\(\overrightarrow{BC}\)は、区別できません。
区別できないので等しいといってよいでしょう。

ここでもあまり上手でないたとえをしてみます。
\(1 + 5 =\) これはもちろん\(6\)ですね。
では\(2 + 4 =\) これも、\(6\)ですね。
という事は、\(1 + 5 = 2 + 4\)と書いてもいいですね?
つまり数字の世界では、計算の結果同じになるのであれば、元のものを同じとしてもよい、わけです。
数字の世界で当たり前のようにやっていたことを、ベクトルの世界でも似たようなことをやっているだけ、と感じてもらえれば幸いです。

ここから、
「ベクトルは、始点が違っても、平行かつ向きが同じかつ大きさが同じものは同じものとして扱う」
\(\leftrightarrow\) 「ベクトルそのものには、始点が関係しない」
という事になります。

ここから、「平行四辺形の2辺となれる2つのベクトルを使えば、平面上のあらゆる点を表せる」という事がわかります。

原点を通って、2つのベクトル\(\overrightarrow{k} , \overrightarrow{n}\)に平行な直線\(OK\)と\(ON\)をそれぞれ引いたとして。
ある点\(C\)をこの2つのベクトルを使って表すことを考えます。

点\(C\)を通り直線\(OK\)に平行な直線と、直線\(ON\)の交点を点\(A\)とし。
点\(C\)を通り直線\(ON\)に平行な直線と、直線\(OK\)の交点を点\(B\)とします。

この時、
\(\overrightarrow{OC} = \overrightarrow{OA} + \overrightarrow{OB}\)
であり、かつ
\(\overrightarrow{OA} = \alpha \overrightarrow{k}\)
\(\overrightarrow{OB} = \beta \overrightarrow{n}\)
となる、\(\alpha\)と\(\beta\)が必ず存在します。
よって、
「平行四辺形の2辺となれる2つのベクトルを使えば、平面上のあらゆる点を表せる」
と言えます。

ちなみに、こういう関係を持ったベクトルは”互いに独立している”といいます。
そして、そういうベクトルの組の中で、直交しているものを選んで平面上の点を表す時、このやり方を”直交座標系”と言います。

後々”ベクトル空間”というものが出てくるので、今の段階でそれを確かめておきましょう。

ここでいう空間というのは、集まり、くらいの意味です。
3次元とか、そういうのは関係ありません。
ので、今考えている平面がベクトル空間の性質を持っているのかを見てみます。

ある集まりがベクトル空間であるためには、そこに含まれるもの(元と呼びます)がベクトルであることが必要です。
ベクトルである条件は、上の2つなので、
1. 足し算ができる
2. スカラー倍ができる。
です。

そのうえで、源であるベクトルが以下の性質を持つ必要があります。
それでは一つずつ見ていきます。

3. 足し算は順番を入れ替えてもよい。(和の交換法則)
4.足す順番を変えてもよい。(和の結合法則

この2つは、上の方で言っている、ベクトルの足し算が平行四辺形で決まるという事から、この性質は持ちます。

5.ベクトルの和に対してスカラーが分配法則を満たす。
6.スカラーの和に対してベクトルが分配法則を満たす。

このあたりは、厳密には帰納法あたりを使うと証明できます。
が、感覚としてかっこを外すのは数字と同じやり方だろうと予想がつきます。

7.スカラー倍については順番を変えてもよい。

スカラーの掛け算については、今までの数字の掛け算と同じなので、この性質をもつだろうという予想は尽きます。

8.あるベクトルに対して、足した時に0ベクトルになるものがある。

要素全てにマイナスをかけたものがそうですね。

9.あらゆるベクトルに対して、足し算しても元のベクトルと同じになるベクトル(零ベクトル)がある。

\((0, 0)\)がそれですね。

10.すべてのベクトルに対してあるスカラー倍したときに、元のベクトルになる物(1倍)がある。

当然”1”がそれです。

いくつか「予想がつきます」で済ませているところがあります。
なぜかというと、この性質を持つと、かなり確かな筋で言われているから。
あと、なんとなく証明できそうな道筋が見えるから。
きちんと証明するにしても、一通り終わった後でいいのかなと思っています。

とりあえず、平面についてはベクトル空間の性質を持つ、とします。