所で、直行座標系って何でしょう?→基底ベクトルがすべて直行している座標系です。

直交座標系というのは、「基底ベクトルがすべてお互いに直行している座標系」です。
直行=90°、確かに平面と3次元空間ではそれでいいのですが。
4次元だとどうなるでしょう。

当たり前の話ですが、4次元で90°を考えるのはかなり厳しいので。
「内積が0になる」
という事で話を進めようと思います。
まあ、同じことなんですけどね。

ある空間の基底ベクトルの数は、その次数と同じです。
4次元空間であれば、基底ベクトルは4つ。
そしてその空間のベクトルの要素数は次数と同じ。
なので、4次元空間の基底ベクトルの要素数は全て4つです。

ベクトルAとベクトルBの内積が0になるという事は、
「ベクトルAとベクトルBのi番目の要素を見たときに、どちらか一方が必ず0である」
という事を示します。
これをよくよく考えると、4つの基底ベクトルは、
「 i番目の要素だけ0以外でそのほかは0。ただしi=1~4」
となります。
注)今までiは0~3だったので、それを使ってもいいのですが、とりあえず今回だけは自然数を使いました。

斜交座標というのは、基底ベクトルが直行していないという事です。

斜交座標というのは、基底ベクトルが直行していないということです。
つまり、基底ベクトルの内積が0でないものがある、ということですね。
ただ、基底となるからにはそのすべてのベクトルが互いに独立している必要があります。
(このあたりベクトルのことですが、もしわからなくなったら物理数学のところに戻ってみましょう)
いろいろ難しく考えることもできますが、ここは一番シンプルに、
「その空間内の位置をすべてを指定できる」
ということにしておきましょう。

次に考えるのは、直交座標から斜交座標への変換についてです。
どうですか?この「変換」という言葉にデジャブがないですか?

特殊相対性理論は、「2人の世界で光の速さが同じように変換される」ということが出発点でした。ここに「変換」が関係します。

特殊相対性理論では、2人(本当はもっとたくさんの人がいてもいいのですが)の世界で、光の速さは同じになっている=光速度不変 が出発点でした。
これは、「Aさんの世界の光の速さをBさんの世界に変換しても同じである」ということです。
ここからローレンツ変換が出てきて(正確に言うと、ローレンツ変換の意味が変わったんですが)、さらに\(E = mc^2\)になっていくんですね。

さて、この「光の速さがローレンツ変換で変わらない」ということを考えていくときに、\(dS\)という世界距離を考えました。
これは、2点間(2つの世界の間と言ってもいいかもしれません)のベクトルの大きさでした。
「ベクトルの大きさは変換で変わらない。」、このイメージとしては、
「ある棒の長さを、センチメートルで測ろうが、インチで測ろうが、棒の長さそのものは変わらない」
というのでいいと思います。
これは比喩であり方便ですので、数学的に正確ではないでしょうけど、まず正確さよりも飲み込むことを重要視してこうしています。

これと同じように、直交座標系から斜交座標系に変換しても、ベクトルの長さは変わりません。

式は変わらず、計量テンソルが変わるだけ。しかも計量テンソルの中身が変わるだけで、書き方は変わらない。→結局式自体は何も変わらない。

とりあえず、斜交座標系でもベクトルの長さの2乗は反変ベクトルと共変ベクトルの内積で出せるという事は言えます。
直交座標系の時と同じように、ある位置ベクトルAの長さが\(dS\)、つまり世界距離とします
すると、
\(dS^2 = A_{\nu} A^{\nu}\) ・・・①
で、これは不変となります。

さらに直交座標系と同じように、反変ベクトル\(A^{\mu}\)に計量テンソル\(g_{\mu \nu}\)を掛けて共変ベクトル\(A_{\nu}\)になるとすると、
\(A_{\nu} = g_{\mu \nu} A ^{\mu}\)
となりますので、これを①に代入すると、
\(dS^2 = g_{\mu \nu} A^{\mu} A^{\nu}\)・・・②
となり、これが不変となります。

この形、直交座標のものと同じですよね。
ただし、計量テンソル\(g_{\mu \nu}\)の中身が違います。

直交座標系では、対角成分が、
\(g_{0 0} = 1, g_{1 1} = -1, g_{2 2} = -1, g_{3 3} = -1\)
で、他は全て0でした。
斜交座標系では、対称テンソルというだけで、対角成分以外も0とは限りません。
ちなみに、対称テンソルというのは、行と列を入れ替えた成分同士が等しいことを言います。
簡単に書くと、
\(g_{\mu \nu} = g_{\nu \mu}\)
となります。

そんなことがわかるのかというと、わかります。(ちょっと詐欺チックになりますが)
②式において、\(\mu\)や\(\nu\)は文字が変わっても意味は変わりません。
0~3の数字が順番に入るといだけの意味です。
なのでまず、\(\mu\)を\(\rho\)に変えると、
\(dS^2 = g_{\rho \nu} A^{\rho} A^{\nu}\)
次に\(\nu\)を\(\mu\)に変えると、
\(dS^2 = g_{\rho \mu} A^{\rho} A^{\mu}\)
最後に\(\rho\)を\(\nu\)に変えると、
\(dS^2 = g_{\nu \mu} A^{\nu} A^{\mu}\)
ベクトルの内積は入れ替えても一緒なので、
\(dS^2 = g_{\nu \mu} A^{\mu} A^{\nu}\)
よって、
\(dS^2 = g_{\mu \nu} A^{\mu} A^{\nu} = g_{\nu \mu} A^{\mu} A^{\nu}\)
ゆえに
\(g_{\mu \nu} = g_{\nu \mu}\)

いうまでもなく、直交座標系の計量テンソルでも、この性質は成り立っています。

もうちょっとだけ計量テンソルの性質を考えてみましょう。計量テンソルは内積することで対角成分だけが1になるようなテンソルを必ず持ちます。

何の話かと思われるかもしれませんが。
行列でいう逆行列を、計量テンソルは持っています。
行列\(A\)の逆行列を\(A^{-1}\)と書きますが、その時に
\(A A^{-1} = E\)
ただし\(E\)は\(A E =A\)を満たす行列で、対角成分のみ1、その他は0の行列です。
Aがテンソルであれば、Eは単位テンソルと呼ばれます。

さて、なぜこういう事が言えるのか。
ちょっと頑張って証明してみます。

計量テンソル\(g_{\mu \nu}\)で反変ベクトルは共変ベクトルに変わります。
この関係は1対1でないといけません。
まず、ある反変ベクトルがあったときに、その長さの2乗を出すような線形汎関数は1個しかありません。
反対に、ある共変ベクトルの成分を係数にして、長さの2乗が出るような反変ベクトルも1個しかありません。
線形汎関数の式である、
\( dS^2 = \alpha_0 x_0 + \alpha_1 x_1 + \alpha_2 x_2 + \alpha_3 x3 \)
を考えると、わかると思います。
(どうしても確かめたい場合は、4つの\(x_i\)の内3つの係数を\(\alpha_i\)で同じにして、残り1個だけ\(\beta_j\)で違うものを作って、この2つが等しいとしてやるとわかります。\(\beta_j\)は\(\alpha_j\)と等しくなります)
これを式で表すと
\(A_{\nu} = g_{\mu \nu} A ^{\mu}\)・・・③
の時に、
\(A^{\nu} = (g_{\mu \nu})’ A _{\mu}\)・・・④
となる\( (g_{\mu \nu})’\)が必ず存在しなければなりません。
④を③に代入したい所ですが、そうすると右側の項に\(\mu\)が3個になります。
理由は省きます、と言うか私にもわかりませんが、一つの項に3つ以上同じ添字が来ては行けません。
ならどうするかと言うと、④の\(\mu\)を\(\rho\)に変えてしまいます。
そうしてできた
\(A^{\nu} = (g_{\rho \nu})’ A _{\rho}\)・・・⑤
この⑤を③に代入します。
\(A_{\nu} = g_{\mu \nu} A ^{\mu} = g_{\mu \nu} (g_{\rho \nu})’ A _{\rho} \)・・・⑥
よって、\( g_{\mu \nu} (g_{\rho \nu})’\)が単位テンソルとなり、\( (g_{\rho \nu})’\)が逆行列の様な性質を持つテンソルとなります。
これを便宜上
\(g^{\rho \nu}\)
と書くことにします。

ここまできて、\(A_{\nu} = g_{\mu \nu} A ^{\mu}\)を考えてみると、共変ベクトルを反変ベクトルに変える式が出ます。

\(A_{\nu} = g_{\mu \nu} A ^{\mu}\)の両辺に\(g^{\rho \nu}\)を左から掛けると、
\(g^{\rho \nu} A_{\nu} =g^{\rho \nu} g_{\mu \nu} A ^{\mu}= A^{\rho}\)
となり、共変ベクトルを反変ベクトルに変える式が出ました。

実はこれ、前の章の最後と同じものです。
が、ここに至った意味は全く違います。
(形もちょっと違います。添え字が変わっていますね)

前回では、背伸びしまくった末での結論でした。
今回は、テンソルとか反変・共変ベクトルなどを理解して、しっかり足固めした後の結論です。
前回が、このまま進めば遭難するかもしれないという状態だったのに対し。
今回は、自信をもって進める状態のはずです。

ということで、もう少しだけ、自信をもって進んでみましょう。

ここで、⑥の式をみると、単位テンソルと呼んでいたものがAの添え字を変えるだけの働きをしていることがわかります。

\(A_{\nu} = g_{\mu \nu} A ^{\mu} = g_{\rho \nu} (g_{\rho \nu})’ A _{\rho} \)・・・⑥
この式の中の
\( g_{\mu \nu} (g_{\rho \nu})’ \)
の部分ですね。
\((g_{\rho \nu})’ = g^{\rho \nu}\)
と書くことにしたので、
\(g_{\mu \nu} g^{\rho \nu}\)・・・⑦
のことになります。

よく見ると、右のgの下添え字\(\nu\)と左のgの上添え字\(\nu\)が同じですね。
こういう場合、この添え字を消すことにしていました。
今まで、\(g_{\mu \nu} A^{\nu} = A_{mu}\)とか、\(g^{\mu \mu} A_{\nu} = A^{\mu}\)とかでさんざんやってきましたよね。
ということで、⑦でも同じようにしてみます。
\(g_{\mu \nu} g^{\rho \nu} = g^{\rho}_{\nu}\)
これを使って、⑥は
\(A_{\nu} = g^{\rho}_{\mu}A _{\rho} \)
と書けます。

ちょっと頑張れば、
\(A^{\rho} = g^{\rho}_{\mu}A ^{\mu} \)
というのも分かると思います。

つまり、単位テンソルと呼んでいたものは、\(g^{\rho}_{\mu}\)と書けて、ベクトルの添え字を変える働きだけをする、ということがわかりました。

次項からさらに議論を発展させていきます。(が、まだしばらく斜交座標のままです)

事項の最初で、軽量テンソルの「下添え字」「上添え字」「上下添え字」の3パターンを復習して、さらに斜交座標でのスカラー積(内積みたいなもの)を考えていきます。

そして、そこから曲線座標に議論を進めて、一般相対性理論につなげていく予定です。
ただ、その間でたくさんの数学的な道具を学んでいきますので、ゆっくりと理解していきましょう。