テンソルに関する勉強における、ラスボス的存在「双対ベクトル空間」

実はこの「双対」という言葉や、その周辺の言葉は、今までに何度も出てきました。
覚えているでしょうか?
「共変ベクトル」、「汎線形関数」、「横ベクトル」、「矢印で表せないベクトル」などを。

これらは全て「双対ベクトル空間」の周辺にあるいわば中ボス的な存在でした。
そして、今、我々はそのすべての中ボスを倒して、ラスボスの部屋の前にたたずんでいる、そんな場面と考えてください。

それではいよいよ、ラスボス戦突入です。

双対ベクトル空間は、双対ベクトルの集合。そして、双対ベクトルは、”普通のベクトル”があって初めてできるもの。

今までの知識を総動員していきましょう。
「空間」は「計算できるもの(一番簡単なのは数。ベクトルなんかもOK)の集合」。
ベクトルとは、いくつかの要素をまとめて扱ったもので、10の法則に従って計算できるもの。
ベクトルは2種類あり、矢印でイメージできる反変ベクトルと呼ばれるものと、矢印で考えられない共変ベクトルがある事。

そして、双対というのは、
「反変ベクトルにたいして線形汎関数を行う変換の係数をベクトルにした物」
線形汎関数とは、ベクトルから「数」を取り出す手法。
その手法は、反変ベクトルと双対ベクトルの内積と同じ計算になる事。
そしてそれは、行列の掛け算的に言うと、反変ベクトルの右から双対ベクトルをかけるのと同じ計算になる事。
このことから、反変ベクトルは縦ベクトルなので、双対ベクトルは横ベクトルになる事。

そういった双対ベクトルの集まりが双対ベクトル空間になります。

ここから一気に本丸まで駆け上がります。真のラスボスは「反変ベクトル」。

ゲームにおいて、ラスボスを倒したと思ったら、真のラスボスが出てくることってよくあります。
今回もそのパターンと考えてください。
双対ベクトル空間がわかったことで、それらをまとめることでテンソルというものがわかってきました。
その先に見えてくる、真のラスボスの正体。
それは「反変ベクトル」だったのです。

今までの情報をまとめます。

  • 直積とは2つのベクトル空間の基底に関するいわば掛け算の様なもの。
  • テンソル積は2つのベクトル空間の直積の事で、その集まりをテンソル積空間と呼ぶが、その2つのベクトルが1種のベクトル空間とその双対ベクトル空間の場合、それをテンソル空間と呼ぶ。
  • 双対ベクトル空間とは、あるベクトル空間のベクトルについての双対なベクトルの集まり。
  • 双対であるというのは、あるベクトルの変換(=線形汎関数による写像)を行うときの係数をベクトルで表したもの。

そして、最後に残った謎それが

  • ・最初に考えるベクトルが、我々が矢印でイメージするベクトルである場合、それを縦書きのベクトルで表し、それに対する共変ベクトルは横書きで表す。

の「共変ベクトル」という言葉です。

ここまでくるとやっと、真のラスボス「共変ベクトル」の正体が見えてきます。

  • 私達が矢印でイメージするベクトル(反変ベクトル)でできたベクトル空間を、別のベクトル空間に変換するときに考える必要が出てきます。
  • その変換=線形汎関数による操作 は、反変ベクトルの成分に掛け算する係数をベクトルで表したものです。
  • 線形汎関数は、ベクトルを「数」に変換するもので、その変換式は変換したい反変ベクトル(縦ベクトル)の右に双対ベクトル(横ベクトル)を内積したものとなります。
  • 変換元のベクトル(これは反変ベクトルです)はある1種のベクトル空間(当然反変ベクトル空間になります)に属していて、そのベクトル空間には基底が存在します。4次元空間であれば、基底は4個あります。
  • その(反変)ベクトル空間に対して、双対ベクトル空間が存在することになり、それも基底をもちます。元の反変ベクトル空間が4次元なら、この双対ベクトル空間の基底も4個となります。
  • この2つの反変ベクトル空間の基底と双対ベクトルの基底の直積の集まりが、テンソル空間となります。
  • そして、そのテンソル空間の元、つまりいくつかあるテンソル積の中のそれぞれが、テンソルと呼ばれるものです。
  • 4次元ベクトルの反変ベクトル空間を考えるのであれば、ここで出てくるテンソルは”4, 4-の行列の形をしたもの”になります。

そして、

  • 共変ベクトルは、元のベクトル(反変ベクトルと呼んでいる、我々がイメージする普通のベクトル)に内積することで、元のベクトルの大きさの2乗になるようなベクトル。

という事になります。
つまり、反変ベクトルを考えるときの線形汎関数は、「そのベクトルの大きさの2乗を取り出す操作」になります。
こういう関係にある「元のベクトルと双対ベクトルの組」を「反変ベクトルとその共変ベクトルの組」としているのです。

どうでしょう、真のラスボス「反変ベクトル」を攻略できたでしょうか?

ちなみにテンソルに話をもどして。テンソルには「階数」というものが存在します。

単純に言えば、「階数」というのは”複雑さ”の様なものです。
いくつの方向に向かって”伸びているか”と言う数字になります。

具体的な例を使って順を追ってみていきますと、
0階のテンソル・・・スカラー。伸びる方向はありません。
1階のテンソル・・・ベクトル。1方向のみに伸びます。
2階のテンソル・・・行列。2方向に延びます。

それでは3階のテンソルはどうなるかというと、
・行列が積み重なる感じです。
積み重なる方向にもう1方向伸びた感じですね。

という事は、4階のテンソルはと言うと、
・イメージできません。
これは仕方のないことで、私たちの認識は3次元空間までしか理解できないのです。
4次元空間がイメージしにくいのは、これが理由ですね。
ただ、1軸(時間軸)は特殊なので(一方通行で見えないけれど、時間変化として感じることができる)ので、何とか無理やりイメージできなくもないのです。

特殊相対性理論で使う「光円錐」がそういうものですね。
ただしこれは、3次元空間の内の1次元をなくして、代わりに時間軸を使ったものです。
つまり、「4次元を3次元に簡略化したもの」ですね。

今回考える4階テンソルについては、4つの基底は全て等価なので、どれか一つを特別扱いできないんですよね。
つまり、4階テンソルはイメージ不可能です。(少なくとも私には)

で、テンソルは反変成分と共変成分を持ちます。

何のことかと思うでしょうね。
ただ、すでにこのあたり、意識していないだけで利用しています。

・縦ベクトルを反変ベクトル、横ベクトルを共変ベクトルとしてきました。
ベクトルは1階のテンソルなので、反変か共変かどちらか1方の成分しか持たないので、こう呼んだわけですね。
・行列は、反変ベクトルと共変ベクトルの直積でできていました。
つまり、私たちが普通に行列として扱っているものは、2階のテンソルであると同時に「1階の反変、1階の共変テンソル」と言えるわけです。
つまり、反変の風味と共変の風味の両方をもっているわけですね。
こういう状態を「反変成分と共変成分を持つ」といったりします。

ところがこれ、実は結構厄介でして。
2階のテンソルで格子状(今行列として考えている、あの形)のものが1階反変・1階共変のものがあるとすると。
2階の反変とか2回の共変とかあってもおかしくない、というか、そういうものがあるんです。
そうなると、これが行列で書けるのかというと、ちょっと待ったとなる。

さらに、3階のテンソルとなると3個目の軸、つまり積み重ねる行為が反変なのか共変なのかわからなくなります。
4階のテンソルともなれば、最初から表記不可能なうえに、反変・共変の取り方が、2の4乗=16通りになります。

なので、最初からベクトルだの行列だのという「表記する方法」は諦めます。

テンソルについては、添え字の数が階数となり、添え字が上のものを反変成分、下のものを共変成分とします。そして、この辺からもう一度一般相対性理論にチャレンジします。

ということで、添え字の上下で反変か共変かを表すことにします。
そして、添え字の数で階数を表すのです。
どうせ書き表せないのなら、最初から書き表すのをあきらめてしまえばいい。
私としては、とってもすっきりした決断で、前面的に支持します。

そうした上で、最後に計算する時だけ、行列やベクトルを書くようにするんです。
途中、4階のテンソルとか出てきても、ほっとくのです。
というのも、アインシュタインの縮約という方法があって、これを使うと階数を減らせるんです。
そう、どのみち最終的に階数を減らして、書き表せるところにもっていくのだから、途中は書く必要はない。
私としては、とっても合理的で全面的に支持します。

ここまで来て、このアインシュタインの縮約あたりから、もう一度一般相対性理論に挑んでいこうと思います。